榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

「見える化」による個人の変化、組織の進化・・・【リーダーのための読書論(13)】

【医薬経済 2008年4月1日号】 リーダーのための読書論(13)

「見える化」に関する本が巷に溢れているが、一冊を選ぶならば、『見える化――強い企業をつくる「見える」仕組み』(遠藤功著、東洋経済新報社)ということになるだろう。

「見える化」とは何か。個人や組織の活動の基本はPDCA(Plan<計画>→Do<実行>→Check<点検>→Action<対策>)サイクルと言われるが、著者はこれを「計画達成のPDCA」と呼ぶ。そして、Doから枝分かれしてCheckに戻ってくる、もう一つのPDCA(Problem-finding<問題発見>→Display<見える化>→Clear<問題解決>→Acknowledge<確認>)サイクルが必要だというのだ。著者はこちらは「問題解決のPDCA」と呼んでいる。すなわち、「見える化」なくしては「問題解決のPDCA」は機能しない。多くの組織で問題や異常が発見されていないわけではない。重要なのは、そうした問題や異常を「見える化」させ、全員で問題を解決し、計画を達成することだ。

「見える化」には5つのカテゴリーがある。「問題の見える化」「状況の見える化」「顧客の見える化」「知恵の見える化」「経営の見える化」であるが、中核となる「問題の見える化」は「異常の見える化」「ギャップの見える化」「シグナルの見える化」「真因の見える化」「効果の見える化」に分解することができる。

「見える化」は何をもたらすのか。「見える化」が「気づき」「思考」「対話」「行動」を育み、この「気づき→思考→対話→行動」サイクルが個人の意識や行動を変化させる。個人の変化が、組織を進化させることに繋がっていく。「見える化」が組織の「人」「団結」「風土」を育むからだ。

『見える化』の中で一番多く紹介されているのはトヨタ自動車の成功事例である。『常に時流に先んずべし――トヨタ経営語録』(PHP研究所編、PHP研究所)に収載されているトヨタの歴代経営幹部の言葉は、ある意味では当たり前のことばかりだ。それを着実にコツコツと、幹部から新入社員までが揃って実行しているところに、トヨタの強さがあるのだろう。

渡辺捷昭社長が、「会社の上層部に危機感があればいいという意味ではなくて、やはり、それぞれの部門のリーダーや現場の第一線で働いている人たちに『現状に満足しないぞ』という意識、課題摘出能力があるかないかだと思う。『あるべき理想状態に対して、ここが足りない。だから、ここを埋めなければならない』という発想が、瞬時にどれだけできるかどうか。つまり問題発見能力を養成しなければいけない」と述べている。

張富士夫会長は、「クルマを市場に出してから、お客様に叱られ、叱られ、だんだんいいものにしていく。言葉を換えると、お客様に育ててもらっているという部分が、メーカーには必ずあるわけである」と語っているが、メーカー以外の企業にも同じことが言えるだろう。

トヨタと並ぶ超優良企業・松下電器(現・パナソニック)の創業者の言葉を編纂した『道をひらく』(松下幸之助著、PHP研究所)も一読の価値がある。

「窮境に立つということは、身をもって知る尊いチャンスではあるまいか。得難い体得の機会ではあるまいか。そう考えれば、苦しいなかにも勇気が出る。元気が出る。思い直した心のなかに新しい知恵がわいて出る。そして、禍を転じて福となす、力強い再出発への道がひらけてくる」といった言葉に勇気づけられる。