榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

潜在価値を掘り起こして、真のヘビーユーザーづくりを成功させよう・・・【リーダーのための読書論(71)】

【amazon 『潜在価値マーケティング』 カスタマーレビュー 2018年10月27日】 リーダーのための読書論(71)

潜在価値マーケティング』(平野淳著、幻冬舎メディアコンサルティング)は、真のヘビーユーザーづくりを実現するための手順書である。

著者は、「潜在価値」を「自分たちの本当の強み」と定義している。「人間も企業も自らの本質的魅力に『無自覚』であることは、人生を生きる上でも企業活動を行う上でも足をすくわれる『罠』となる。まずは見えない『罠』とは何かを自覚し、『潜在価値マーケティング』によって『罠』から抜け出し、ビジネスを成功に導いていくことが肝要だ」。組織のみならず、個人にも有効とは、一石二鳥である。

ヘビーユーザーづくりが、なぜ、それほど重要なのか。「20:80の法則のように、20%の顧客で80%の売り上げをつくるといわれるものが、さらに突っ込んだ分析をしてみると、5%の顧客で50%の売り上げ、もっといえば1%の顧客で20%の売り上げをつくっていることが分かった。トップ1%の顧客(ヘビーユーザー)は普通の顧客よりも20倍の購買力を持っているということである」。

ヘビーユーザーづくりの具体的なアプローチとは、いかなるものか。「『曖昧模糊とした消費者の意識構造を、確固としたものに置き換え、ヘビーユーザーの意識構造にする』ということである。つまり顧客の意識構造について『イメージレベルを確信レベルに高める』ことが潜在価値開発の狙い、目的なのである」。

潜在価値開発の具体的な方法とは、いかなるものか。●第1ステップ 潜在価値開発理論の理解=社員研修、●第2ステップ 社内仮説の探索=社員インタビュー、●第3ステップ 顧客からの差別的優位性の抽出=ヘビーユーザーリサーチ、●第4ステップ 差別的優位性の情報仮説づくり=情報開発(ステートメント化)、●第5ステップ 仮説の検証=ノンユーザーリサーチ、●第6ステップ 表現仮説づくり=表現仮説づくり(コピー化)、●第7ステップ 計算できる仕組み=市場テスト――の7ステップが提示されている。

「潜在価値マーケティング」が企業に革命を起こした「潜在価値開発」の実践事例が5つ挙げられている。この中の「真のヘビーユーザーづくりを目指す カゴメ『野菜一日これ一本』」を詳しく見てみよう。

「まず最初に私たちとカゴメの間で共有したのは『ヘビーユーザー』の概念である。それまでカゴメでは野菜飲料を週1回飲んでいるユーザーは『ヘビーユーザー』と位置付けていた。だが『潜在価値開発』によって生まれる真のヘビーユーザーは『毎日のように飲む』ユーザーである。・・・『<カゴメの野菜一日これ一本>がいい』と指名買いしてもらって毎日飲んでもらいたいのである」。

「ヘビーユーザーとして長く愛飲してもらうには、商品を深く理解してもらうことと同時に消費者、ユーザーがカゴメの商品に対して持っている価値をメーカーとしてきちんと理解することも重要になる。ここでユーザーリサーチを行った結果、カゴメの社内では『もう使い古されて価値がない』と思われていたものが、実は今もユーザーにとっては『それが好きでずっと飲んでいる』理由になっていたことが分かったのである。・・・ユーザーリサーチから浮かび上がったのは、すでにカゴメの野菜飲料を飲んでいる人に『やっぱりカゴメの商品は良いものだった』と再発見してもらって飲み増しをしてもらうほうが圧倒的に増分効果が高いというものだった」。

「そこで『カゴメの良さ』を探り出すために『潜在価値開発』によって、トマトジュースから始まり85年目を迎える野菜飲料商品の埋もれた価値を社内から徹底して洗い出す作業を行ったのである。すると、営業、マーケティング、生産などのさまざまな部門から改めて『これは自分たちのすごい部分だと思う』という要素がいくつも出てきた。その中には、もう『何年も前にそれを打ち出すのはやめた』というものも多数あった。だが、それらを勝手に価値なしと決めつけず、仮説ステートメント化シユーザーに評価してもらうと、『野菜一日これ一本』では『栄養吸収率』や『無添加』といった、社内ではもう訴求しなくなっていた要素にユーザーの高い評価が集まっていたのである。・・・きちんと理解してもらって伝わるような手段があれば、『栄養吸収率』や『無添加』といったメッセージはユーザーに評価され『やっぱりカゴメの商品は良いものだった』と飲み増しにつながるのである」。

「これまで伝えてきたメッセージの効果がなかったのではなく、ユーザーにきちんと理解されるように届けられていなかった。そのことが『潜在価値開発』で分かったため、一方的ではなくユーザーが能動的にメッセージを受け取れる施策(質問型コミュニケーション)を私から提案し、コミュニケーションを行った」。

どういう結果が得られたのか。「能動的なコミュニケーションからカゴメの『潜在価値』を反映したメッセージを受け取ったユーザーの『野菜一日これ一本』に対する継続購入意欲は『非常に高まった 30.5%』『高まった 36.6%』と合わせて67%近くものユーザーに態度変容が起きた。また追跡調査の結果、その後の購入率も27.5%から35.1%に上昇したのである」。

自社にしかない価値を大事にして、それをコミュニケーションの中心に据えることで、実際に顧客をヘビーユーザー化させ、競争から一歩抜け出せるのだということを、本書が教えてくれたのである。