榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ゼロに小さなイチを足していけ・・・【続・リーダーのための読書論(41)】

【ほぼ日刊メディカルビジネス情報源 2014年5月30日号】 続・リーダーのための読書論(41)

新たな一歩を

私よりずっと年下だが、堀江貴文が好きだ。彼の絶頂期の著書『稼ぐが勝ち』以来、彼の本はいろいろ読んできたが、今回の『ゼロ――なにもない自分に小さなイチを足していく』(堀江貴文著、ダイヤモンド社)によって、堀江貴文という人間をより深く理解することができた。

「これまで僕は、精いっぱい突っぱって生きてきた。 弱みを見せたら負けだと思い、たくさんの敵をつくってきた。自分でもわかっている、どこまでも不器用な生き方だ。そして僕は逮捕され、すべてを失った。いま僕の心の中はとても静かだ。久しぶりに経験するゼロの自分は、意外なほどにすがすがしい。もう飾る必要はないし、誰かと戦う必要もない。いまなら語れる気がする。ありのままの堀江貴文を。それは僕にとっての、あらたな第一歩なのだ」。私は、堀江は国によって見せしめの刑に処せられたと考えているが、頂点を極め、そこから転落してなお、こう言える著者の前向きな姿勢は素晴らしい。

「たしかに僕は、すべてを失った。命がけで育ててきた会社を失い、かけがえのない社員を失い、社会的信用も、資産のほとんども失った。・・・手のひらを返すように、僕の元から離れていった人たちも大勢いる。さらには実刑判決を受け、懲役2年6ヵ月の刑務所送りとなる」。

掛け算でなく足し算で

「人が新しい一歩を踏み出そうとするとき、次へのスッテップに進もうとするとき、そのスタートラインにおいては、誰もが等しくゼロなのだ。・・・ゼロになにを掛けたところで、ゼロのままだ。物事の出発点は『掛け算』ではなく、必ず『足し算』でなければならない。まずはゼロとしての自分に、小さなイチを足す。小さく地道な一歩を踏み出す。ほんとうの成功とは、そこからはじまるのだ」。この「掛け算」でなく「足し算」という考え方は、説得力がある。


著者は中学入学直後にパソコンに出会う。「パソコンのなにが、それほど僕を惹きつけたのか? まず挙げられるのは、パソコンが知的好奇心を満たすおもちゃだったことだ」。そして、中学2年の時、大切なことに気づく。「僕にとってなによりも大きかったのは、自分の能力を生かし、自分が大好きなプログラミングを通じて誰かを助け、しかも報酬まで得ることができた、という事実だ。・・・『そうか、働くってこういうことなんだ』」。

「勉強でも仕事でも、あるいはコンピュータのプログラミングでもそうだが、歯を食いしばって努力したところで大した成果は得られない。努力するのではなく、その作業に『ハマる』こと。なにもかも忘れるくらいに没頭すること。それさえできれば、英単語の丸暗記だって楽しくなってくる」。私の経験に照らして、全面的に賛成である。

小さな成功体験を

「なにかを待つのではなく、自らが小さな勇気を振り絞り、自らの意思で一歩前に踏み出すこと。経験とは、経過した時間ではなく、自らが足を踏み出した歩数によってカウントされていくのである」。全く、そのとおりだ!