こういう読み方もあったのか!・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2831)】
節分用の豆を口にすると、子供時代、家族揃っての豆撒きを懐かしく思い出します。
閑話休題、『齋藤孝の名著50――5分で名著』(齋藤孝編著、ワック)で、とりわけ印象に残ったのは、ソポクレスの『オイディプス王』、ニーチェの『ツァラトゥストラ』、カフカの『城』――の3作品です。
●オイディプス王――心のしこりを浄化する
「運命から逃げようとすればするほど、深みにはまっていく。運命との戦いに勝ち目はないと、改めて思い知らされます。・・・この悲劇の醍醐味は、『自分に起こるかもしれない悲劇をオイディプスが背負ってくれた』というふうに捉え、心のしこりが涙とともに浄化されたように感じるところにあります。・・・50を過ぎて、運命を呪いたくなることもあるかもしれませんが、オイディプスほどの悲惨さはないはず。この演劇に触れると、そんな自分の心のしこりが浄化されると思います。もう一つ付け加えると、『オイディプス王』には『知らなくてすむことは、知らないほうがいい』というメッセージも込められているように思います」。早速、私の「読むべき本」リストに加えました。
●ツァラトゥストラ――自分の弱さを振り払う
「『神は死んだ』・・・ニーチェはなぜそう考えたのか。それは、キリスト教がよいとするものは、すべて天上の神の世界にあり、人間はちっぽけな存在で、地上に生きている自分を自己肯定しにくい状況になっていたからです。『地上に生きる、生身の人間こそがすばらしい。もっと祝福しようじゃないか』とし、『人間的なる弱さ、小ささを乗り超える超人でなければいけない』と言います。そして、『わたしはあなたがたに超人を教える。人間とは乗り超えられるべきあるものである。あなたがたは、人間を乗り超えるために、何をしたか』という言葉に続けて、実にかっこいい力強い言葉が続きます。・・・50歳の節目に立って過去を振り返ったとき、人生をプラス・マイナスで収支決算したってむなしいだけ。それよりも、すべての過去を肯定して『よし、もう一度!』というくらいの気持ちで生きたほうが、これから先にどんな苦難が待ち受けていたとしても、自分の弱さを振り払って、前向きに生きていけます」。ニーチェの考え方に賛成だ!
●城――全編に漂う朦朧感を味わう
「カフカは20世紀の作家ですが、この小説には現代人が抱える悩みや不安が凝縮されています。それは、チェコに生まれたユダヤ人であるカフカ自身が社会のなかで存在を喪失し苦しんだ現実。あとがきにあるように、本作品の主人公である測量士Kの生涯は、『生まれながらの異邦人カフカの縮図』でもあるのです。測量士として仕事をするために城に行ったのに、いつまでたっても城とその村に所属することを許されないKの格闘に感情移入しつつ、全編に漂う朦朧感を味わうのがよいかと思います。・・・可能性としては、(同棲を始めた)フリーダとの愛情生活でもう一度自分を立て直すこともできたのに、それができなかった。城に入り、仕事をしたい一心で自縄自縛の沼にはまってしまったのです。『仕事=自分』という考え方は、もしかしたらアイデンティティの喪失につながる危険をはらんでいるのかもしれない。そこに気づく意味でも、『城』の醸す朦朧感にどっぷりつかるのも悪くないと思います」。こういう読み方もあったのか!