優秀であるが故に不幸な人生を歩んでしまう人が多いのはなぜか・・・【続・リーダーのための読書論(34)】
破壊的イノベーション
優良企業におけるイノベーションが孕む陥穽を実証し、世界的に衝撃を与えた「破壊的イノベーション論」で知られるクレイトン・M・クリステンセンが、『イノベーション・オブ・ライフ――ハーバード・ビジネススクールを巣立つ君たちへ』(クレイトン・M・クリステンセン、ジュームズ・アルワース、カレン・ディロン著、櫻井祐子訳、翔泳社)を2012年に出版したのには、2つの重要な背景がある。
背景の1つは、こうである。優秀であるが故に失敗してしまう企業と同じように、才能に溢れ、強い達成意欲を抱く若者たちが、優秀であるが故に不幸な人生を歩んでしまう――ハーバード・ビジネススクールの看板教授だったクリステンセンは、そういう同級生や教え子を数え切れないほど見てきた。この人生のジレンマを乗り越える手助けをしたいという思いが本書を書かせたのだ。
もう1つの背景は、クリステンセンが、ここ数年、立て続けに大病――心臓発作、悪性腫瘍、脳梗塞――に冒されたことである。
看板教授の最終講義
2010年の卒業生たちに行った最終講義に加筆し、書籍化したのがこの本であるが、「どうすれば幸せで成功するキャリアを歩めるのか?」、「どうすれば伴侶や家族、親族、親しい友人たちとの関係を、揺るぎない幸せの拠り所にできるのか?」、「どうすれば誠実な人生を送り、罪人にならずにいられるのか?」という問いに対する解答が、率直に語られている。
「わたしたちが最も陥りやすい間違いの一つは、それさえあれば幸せになれると信じて、職業上の成功を示す、目に見えやすい証に執着することだ。もっと高い報酬。もっと権威のある肩書き。もっと立派なオフィス。こうしたものは結局のところ、あなたが職業的に『成功した』ことを、友人や家族に示すしるしでしかない」。従って、「この仕事は、自分にとって意味があるだろうか? 成長する機会を与えてくれるだろうか? 何か新しいことを学べるだろうか?」といった動機づけを重視せよというのだ。そして、この目標達成に向けて、自分の限りある資源――時間や労力、金――をどのように配分するかを、よく考えろというのだ。その際、人生にとって最重要な投資を後回しにするリスクを冒すなと強調している。「家族や親しい友人との関係は、人生の最も大きな幸せのよりどころの一つだと、わたしは心から信じている。簡単なことのように聞こえるが、重要な投資の例にもれず、こうした関係にも絶えず気を配り、手をかける必要がある」、「愛する人に幸せになってほしいと思うのは、自然な気持ちだ。難しいのは、自分がそのなかで担うべき役割を理解することだ」。
「人生は已むを得ない事情の連続だ」、「人生はやり直しが利かない。過ぎ去った時間を取り戻すことは決してできない」という著者の言葉を胸に刻み、動機づけを過たないようにしよう。
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