榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

自分は上司に信頼されている――という実感が、部下を成長させる・・・【あなたの人生が最高に輝く時(64)】

【ミクスOnline 2016年5月16日号】 あなたの人生が最高に輝く時(64)

ビジネスパーソンの要件

いばる上司はいずれ終わる――世界に通じる「謙虚のリーダー学」入門』(鳥居正男著、プレジデント社)は、外資系製薬企業一筋で輝かしいキャリアを重ねてきた著者が、自分の若い時から現在に至るまでを振り返りながら、ビジネスパーソンの要件を抽出した書である。

本書を読んで、この著者は謙虚で正直な人だなと感じたが、この印象は、著者を直接知る人たちから聞いていた著者の姿勢と一致している。

外資系で働く人たちに限らず、また製薬企業に所属する人たちだけでなく、全てのビジネスパーソンに共通するビジネスの世界で生きていく上でのヒントが詰まっている。

具体的なヒント

●謙虚さ、質素さ、実直さ、勤勉さ、約束を守る、潔癖性、チームワーク。そうした「日本人らしさ」と呼ばれるような価値観を大切に考えています。こうした「日本人らしさ」こそが、グローバル競争を生き抜く鍵である。

●グローバルに活躍できるビジネスパーソンになるには、英語が堪能でなければならない、と思う必要はありません。重要なことは、「どれだけ上手に英語を話せるか」ではなく、「なにを英語で伝えるか」です。・・・英語を社内公用語としている日本企業。主な事業拠点が日本国内にあるにもかかわらず、「英語公用語化」へ踏み切ることに、どれほどの意味があるか疑問です。・・・英語はコミュニケーションの手段に過ぎない。

●自分自身を、あるいは生まれ育った環境や文化を見詰めて掘り下げてきた人は、国籍や外国語のレベルにかかわらず人を惹きつける魅力があります。つまりグローバルに活躍しようと考えるなら、人間性を磨き、教養を身につけることが大事なのです。

●自分の能力を過信することなく、日々手を抜かずに全力を尽すことを心がけてやってきました。トップに立つものが努力する姿を見せることで、社員に「自分もやらなくては」という気持ちになってもらえる、と考えてきました。そして、それが私の人間としての成長にも結びつくと信じてきました。会社や組織が成り立っているのは、社員一人ひとりの努力があるからです。

●ビジネスの現場で生き抜くためにもっとも大切なのは、特殊な才能や特別な技術ではなく。日々の地道な努力と、誰に対しても謙虚に接する人間性だと、多くの人たちに知ってほしいのです。

●外国の上司と信頼を築き、維持するうえで重要なことがあります。それがヘッズアップ(Heads up)。これはアメリカで頻繁に使われる言葉で「いずれ話が行くと思うけど、早めに言っておく」。日本流に言えば「早めの報告」という意味です。とくに悪いニュースがあるときは上司への早めのヘッズアップは欠かせません。・・・突然「まずいことになってしまいました」と報告が入ったとき上司はどう振る舞うべきか。私は「よかった」と思うようにしています。

●「自分は上司に信頼されている」という実感が、「次はもっと完璧に、もっとスピーディーに」という強いやる気と責任感に結びついていったのです。部下を信頼して、仕事をまかせる――。その姿勢がリーダーには欠かせないと身をもって知りました。それが、ビジネスパーソンとしての私の背骨と言っても過言ではありません。

●成長するには、いまの自分に何が足りないのか、謙虚に見つめなければなりません。若いうちの失敗や反省は、謙虚さを身につけ、成長するためには不可欠なプロセスなのです。

●相手の目をみて「傾聴」する。

●上司の仕事は、部下にとって働きやすい環境を作ることです。

●上司は率先して自分のミスを認めるべきです。

●懇親会はふだんあまり顔を合わせない社員と話す絶好のチャンスなのです。立場が上の幹部のほうから積極的に多くの社員に声をかけにいくべきなのです。

逆三角形

●会社組織の理想とは逆三角形なのではないか。つまり一番上に社長がいるのではなく、一番下にトップである私がいてその上に役員、さらに上に管理職。一番上に現場の社員がいるわけです。

著者が挙げるヒント、アドヴァイスは、いずれも共感できるものばかりだ。著者とは比べようもない小さなCSO企業で社長を務めていた時、私も自分で描いた逆三角形の図で社員の心がけを徹底するようにしていた。もっとも、私の逆三角形は、一番下の点が社長、その上がプロジェクト・マネジャー、その上が我が社のMR、その上が得意先製薬企業、その上がドクター等医療関係者、そして、一番上が患者であったが。

本書を読んで、これはと思うことを直ちに実行に移したビジネスパーソンと、読みも実行もしないビジネスパーソンとでは、両者の間に、将来、想像もできないほどの差がついてしまうことだろう。