榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

茶碗の金継ぎに対する嫌悪感が消えてしまった・・・【山陽読書論(243)】

【amazon 『金継ぎのすすめ』 カスタマーレビュー 2013年7月28日】 山椒読書論(243)

私は、気に入ったものを大切に長く使うという愛着心においては人後に落ちない、と自負している。しかしながら、由緒ある茶碗などに施される「金継ぎ」という人の金歯のような修繕方法には嫌悪感を抱いてきた。

ところが、『金継ぎのすすめ――ものを大切にする心』(小澤典代著、誠文堂新光社)が、そういう私の意識を変えてしまったのである。

割れたり欠けてしまった器を漆で継ぎ、金や銀で上化粧して修繕する技術が、金継ぎと呼ばれている。「金継ぎとは、室町時代に茶道の世界から端を発した、日本独自の美意識を兼ね備えた器の繕いの技法です。単純に修復するだけに留まらず、美的感覚を持って傷を繕うことで器に新たな価値を与え、修復した跡を『景色』と呼び愛でるなど、いわば金継ぎは、ものを大切にする心が生んだ日本固有の芸術と言えるでしょう。その行為は、何とも奥深く機知に富んでいて、日本人の知恵の深さや優しさ、したたかさを見る思いがします」。

従来、金継ぎは、茶道に使われる茶碗や花活けの花器、そして骨董など、高価なものに施されてきたが、近年、若い世代を中心に、もっと気軽に金継ぎを行うことが静かなブームになっているという。「金継ぎを施すものが高価な器でなく、普段使いの器であることに、今の豊かさが存在していると感じます。値の張るものだから大切にする、という価値観は旧態依然としていて、どこかもの悲しさを覚えるのは、私だけではないはずです。値段や名に関係なくものを大切にする心の根底にこそ、これから大切にしていきたい価値観があると思うのです」。

「金継ぎのある暮らし」の章では、金継ぎの器を愛する人たちが、金継ぎの魅力やその器の使い方を思い思いに語っている。

「金継ぎ作家・繕う日々」の章では、金継ぎのプロフェッショナルたちの日常が紹介されている。

そして、「金継ぎを学ぼう」の章で、金継ぎのやり方を学ぶことができる。素人の金継ぎ体験記も添えられているので、理解を深めることができる。

私は、7つの茶碗を大切にしている。のんびりできる休みの日の朝、それらの茶碗のうちの一つを取り出すときの気分は何とも言えない。どれも別に高価なものではないが、使い込むほどに愛着が増してくる。割れたり欠けたりしないことを願っているが、本書によって金継ぎの方法を知り、ホッとしている。