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帰国子女でない我が子をバイリンガルにするための7カ条・・・【山椒読書論(522)】

【amazon 『びりちゃんのバイリンガル日記』 カスタマーレビュー 2019年5月4日】 山椒読書論(522)

帰国子女でない我が子をバイリンガルにしたいと考えている親にとって、『びりちゃんのバイリンガル日記――日本語と英語を自由に使える子どもの育て方』(高橋良子著、文芸社)は最強・最高の実践的手引き書と言える。

本書は、帰国子女でない我が子・びりちゃん(ニックネイム)をバイリンガルに育てたいと夢見た著者が、あの手この手を試みた約7年間に亘るバイリンガル子育ての詳細かつ具体的な記録である。

●バイリンガル育成法の第1条=我が子をバイリンガルに育てるのは何のためかをはっきりさせよ。

「私自身、英語を身に付けたことによって世界や仕事の幅が広がりました。ですから、息子にも英語を身に付けてほしいと思っていました。・・・将来会社組織の中で仕事ができなくても英語で身を立てられるようにしてあげたいと思いました。英語さえできれば、在宅でも仕事ができるし、日本国内が駄目でも、海外で仕事ができるのではないかと思ったのです」。

巻末に掲載されている「息子より――バイリンガルになって」と題された、現在の息子からのメッセージの中に、このような一節がある。「以下、英語ができることのメリットを書きます。第1に、僕が得る情報の約半分は英語です。世界情勢、哲学、科学、そして物理などの教養は学校の授業以外に、インターネットのウェブページの英語記事、英語の動画共有サイトなどで学んでいます。・・・もしも英語を使わずに同じだけの情報を手に入れようとしたら、限られた日本語の資料をあさり、苦労しなければならないかもしれません。詳しく言うと、世界では英語話者の方が日本語話者と比べて圧倒的に多いため、情報も比例して多いということです。第2に、英語が使えると人の役に立つ上に、自分のためにもなります。・・・第3に、英語を習得した後、言語の習得の簡単さに気付き、他の言語も学んでみようという発想に至ります。僕は現在。ポルトガル語と中国語を勉強していますが、英語を勉強したことがあるのでノウハウをよくわかっています。あまり言語というものを難しく捉えずに楽しく学ぶことができるのです。英語は、皆を知識、教養の分野だけでなく、人として磨きます。進学、就職にも役立ちます。苦労は必ず報われます。皆さん、今すぐ英語を勉強しましょう」。後生畏るべし。

●第2条=英語は飽くまでも、その人間の世界を広げる手段で、最終目的ではないと心得よ。

「英語はコミュニケーションのための単なる道具です」。

●第3条=先ず、正しい日本語をしっかり身に付けさせてから、英語を学ばせよ。

「日本語(母語)のおくれは、『理解力』『分析力』『思考力』『判断力』のおくれをも意味するのではないでしょうか。もちろん脳は一つなので、英語力は母語と同じレベルまでしか伸びません。つまり、母語のおくれは、子どもの全体的な知的活動のおくれを意味します」。

著者は、幼児期(生後8カ月~小学1年)に、1カ月間に日本語の絵本100冊の読み聞かせを実行している。

●第4条=外国語を学ぶ最適の時期「臨界期」を逃すな。

「アメリカの神経生理学者レネバーグは、1967年に『言語獲得の臨界期』説を発表。言語獲得の臨界期(能力獲得の期限)は10~12歳前後であり、その時期を過ぎると急速に言語習得能力が衰えていくと主張した」。言語能力には臨界期があるのだ。

●第5条=子が英語脳になる時間を確保せよ。

「息子と一緒にいるときに必ず英語で会話をするようにしたのは、息子が英語脳になっている時間をできるだけ長くつくりたかったからです。こう考えたのは、私がロンドンにいるときに、友人にこんな話を聞いたからでした。『英語で考える時間が長ければ長いほど英語は上達する。寝言が英語になったらしめたもの。どんどん上達するよ』。つまり、同じ時間学校で英語を勉強したとしても、それ以外の時間、日本人と一緒にいるなどして頭が日本語脳に切り替わった人と、ネイティブと一緒にいる、あるいはたとえ一人でいたとしても、そのまま英語脳を維持した人とでは、英語の上達具合が違うというのです」。

●第6条=子の英語力向上には、親も子と一緒に学ぶ姿勢が必要だ。

「将来、わが子に国際社会で通用する英語力を身に付けさせたいのであれば、英語だけを教えようとする意識を変える必要があります。取り上げた英語を題材に、その背景や文化を、親が持っている知識や教養と絡めて子どもと話し合い、ときには親も一緒に学んでください。大切なのは、親は子どもに知識と教養、深く考える力を身に付けさせること。そして、親も知らないことは親子で一緒に調べ、学ぶという心構えが大切です。親は子どもと一緒に成長するものなのです」。親は子どもの英語学習の伴走者なのである。

●第7条=子の英語レベルに適合した環境を用意せよ。

著者は、5歳~小学3年は著者が自宅で開いていた英会話教室で週1回学ばせ、小学4年~5年は「おうちdeイングリッシュ」(家庭での全ての会話を英語で行う)で英語漬けの生活を送らせ、中学は国際バカロレア認定校のA校(日本の教育カリキュラムを英語と日本語で行う私立校)に進学させている。びりちゃんは、現在、中学3年で、英検1級合格を目指している。

読者の中には、留学経験があり、通訳、翻訳に携わってきた著者だからできる育成法ではないかと思う向きもあろうが、そういう環境にない親たちも、本書から多くのヒントを引き出すことができるだろう。因みに、著者の夫は英語がそう得意ではないそうだ。