榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

直江兼続と妻・お船の夫婦愛、そして前田慶次郎との友情・・・【情熱的読書人間のないしょ話(75)】

【amazon 『花に背いて』 カスタマーレビュー 2015年5月23日】 情熱的読書人間のないしょ話(75)

散策コースの柏の葉公園のバラ園は、80種、1,600株のバラの甘い香りに包まれていました。中央のアーチを飾るピンクの蔓バラはフランソワジュランビルという品種、アーチの先に見えている鮮やかな赤色のバラはウタゲ(宴)という品種と分かりました。その後、石窯パン工房のテラスで昼食を取っていたら、お相伴に与ろうと、スズメの幼鳥たちが私たちに近づいてきました。因みに、本日の歩数は13,694でした。

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閑話休題、『花に背いて――直江兼続とその妻』(鈴木由紀子著、幻冬舎文庫)は、私の好きな武将・直江兼続と、その妻・お船の夫婦愛と、内助の功が史実に沿って描かれている歴史小説です。この点は期待どおりだったのですが、その上、本書には思いがけない掘り出し物が付いていたのです。

「兼続がお船に好意をよせていることもわかっていた。お船も兼続の男らしいさわやかな人柄に惹かれていた。年下ながらどこか老成したふんいきがあり、一本筋のとおった気骨もある。(主君の上杉)景勝にたいする忠誠無私ないちずさも好ましく思われた」。

「お船の耳元で兼続がささやいた。兼続の熱い吐息が首筋から胸へと伝い、お船のからだをとかした。三つも年上で二度目の婿をむかえるというこだわりも消え、お船はこころよい陶酔に身をゆだねた。兼続とは何度からだを重ねても、そのたびに新鮮な感動をおぼえ、くめどもつきぬ泉のようにお船をうるおした。兼続との語らいもお船の生活にいろどりをそえた」。

「幼いころからなじんできたのに、お船が知っているのは兼続のほんの一部でしかなかった。ともに暮らしてみると思った以上に繊細で、情感豊かな男である。兼続にはなにか底知れぬ可能性がある、とお船には思われた。このまま田舎に埋もれさせてしまうのは惜しいような気がしてならなかった」。

「結婚してから深く兼続を愛してしまったお船には、じぶん以外の女を抱いている兼続を想像するだけで胸がしめつけられる。これほど兼続の子を産みたいと願っているのに、わたしは石女(うまずめ)なのであろうか。お船はもう二十八になった。しかし、いくらあせっても、こればかりはどうにもならない。兼続は一向に気にしているようすもなく、お船がその話題をもちだすと、そうあせらずともよいと軽くいなされた。お船を気づかっているのがわかった」。この時代の武将には珍しく、兼続は生涯、側室を持ちませんでした。

「面子や意地にとらわれない女の感覚が兼続にはうらやましかった。なにがおきても、お船ならたじろがず、まっすぐにつきすすんでいくだろう。勁さのなかにやさしさを秘めたお船に、兼続はいまでも惹かれていた」。

思いがけない掘り出し物とは、本書の半ばに至って、前田慶次郎が登場してきたことです。「ひときわはでな小袖に緋色の革袴をつけた大男と目線が合った。『直江兼続どのでござろう。そんなにしゃちほこばらずに気楽にめされ』。いきなり兼続の隣にすわって、『手前は前田慶次郎と申す。紹巴宗匠に連歌の手ほどきをうけております。お見知りおきのほどを』。いたずらっぽい目を向けて笑った。――この男が京で評判のかぶきものか・・・。慶次郎のかぶきぶりと武勇は兼続も耳にしていた」。

「『慶次郎どのはただのかぶきものとはわけがちがう。『史記』に注解を加えられるほど漢学の素養もあり、三条大納言公光卿から『伊勢物難』の秘伝をうけたほど古典への造詣も深い。連歌を里村紹巴に学び、茶道は古田織部に皆伝までうけた才人じゃ』。慶次郎のことを話すときの兼続はまるで恋にうかされた娘のようである。兼続が深い教養に裏打ちされた慶次郎の自由奔放な生き方に惹かれているように、慶次郎も兼続の学芸によせる情熱と詩的天分にほれこんでいた」。兼続・お船夫妻と慶次郎の固い友情は生涯続いたのです。