年齢、境遇、価値観が異なる3人の女性の恋愛物語・・・【情熱的読書人間のないしょ話(76)】
書斎に飾っているロシアの画家、イヴァン・シーシキンの「樫林の雨」を眺めていると、気持ちが落ち着きます。雨の樫林の小道をカップルが寄り添って一つの傘で歩いていく風景が、何とも言えないいい感じなのです。我が家の近くの、野鳥たちの声が降り注ぐ林を、他愛のない話をしながら女房と散策すると、いろいろなアイディアが湧いてきます。因みに、本日の歩数は11,086でした。
閑話休題、何気なく手にした『愛すべき女たち』(楡井亜木子著、角川文庫)は、期待を大きく上回る作品でした。
スポーツクラブで知り合った3人の女性。薫は、ハーブティー専門店で統括マネジャーを務める35歳ですが、目下、不倫中。小夜子は、夫からほったらかしにされている45歳。友達に誘われて行ったホストクラブの若いホストに入れ揚げてしまいます。美樹は、出版社の契約社員で25歳ですが、結婚は合格するまで3年待ってほしいと言う税理士試験勉強中の恋人がいます。
「二人でマンションに帰り、まず一度目のセックス、そして夕食を終えて、二度目のセックス。(不倫相手の)隆史は薫より三つ上だが、若い男のように激しく求めてくる。しかしその中身は、年相応に濃密だ。薫は隆史と付き合うようになって、一度のセックスで何度も絶頂を迎えられることを知らされた」。
「薫は、両方手にしたい。仕事も、隆史も。結婚願望はないけれど、恋人はいた方がいい。恋人がいて結婚していないのと、恋人がいなくて結婚していないのではまるで意味が違う。一人きりは、淋しい」。
「小夜子はうなだれる。ひと廻りも違うのか。いや、ひと廻りくらい。そこで、小夜子は呆れる。自分はどうして(ホストの)豊との歳の差などを気にしているのだろう。友達でも、ましてや恋人でもないのに」。
「でももう25だし、いまより大人っぽい服にした方がいいのかな。いかにも出来る女、みたいな。会社には、パンツにヒールのパンプスが似合う年上の編集者も多い。美樹はほとんどスカートだ。お尻が案外大きいから、パンツは躊躇する。でもスポーツクラブに通えば、それも解消されるかも」。
「ここのところ、日曜といえば(営業部の7歳年上の)山下と会っていたなあ、と美樹は何だかひとごとのように思い返す。会うたびに、セックスだってしているのに。山下とこんなに続くなんて、思ってもみなかった。もう、3か月だ。最初は、軽い気持ちだった。いやいまだって、軽い気持ちだ。美樹には、(恋人の)和馬がいる。山下には、彼女にもなれないし結婚も出来ないと、はっきり断ってきた。しかし山下はそれでも美樹を誘うのだ。食事くらいいいじゃないか。山下の言い分に、美樹は返す言葉がない。食事だってセックスだって同じだ。これも、山下の言い分だ。それは違うと思うのだけれど」。
年齢も境遇も価値観も違う3人が、互いに悩みを打明けたり、アドヴァイスをしたりするのですが、女性同士だと、こんなことまで話してしまうのかと、びっくりするやら、ある意味、新鮮だったり。
3人それぞれに、新たな状況が生まれますが、これがまた興味深いのです。
「(11歳年下の部下の)川上と関係を持つようになって、もう半年ほどだ。休みを合わせてお互いの住まいを訪ねたり、映画を観て食事をしたりとささやかなものだが、毎回ではないにしても身体の関係もあった。川上はおずおずとした口調で、『薫さん』と呼び、人通りの少ない道を歩く時などそっと手を握ってきたりする」。
読み終わった時、3人に親しみを感じている私がいました。