榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

遠縁の美しい女を巡るミステリアスな時代小説・・・【情熱的読書人間のないしょ話(832)】

【amazon 『遠縁の女』 カスタマーレビュー 2017年8月1日】 情熱的読書人間のないしょ話(832)

プルメリアが白と黄色のコンビネーションが美しい花を咲かせています。女房によれば、この香りのよい花はハワイやタヒチでレイに好んで使われるそうです。シマサンゴアナナスの赤桃色の苞の間に青い蕾が見えます。メディニラ・スペキオサが桃色の花を付けています。クロトンの葉の赤、黄、緑の鮮やかな色合いが目を惹きます。立ち寄った店の小さな庭を見ながら、昼食を取りました。因みに、本日の歩数は10,246でした。

閑話休題、中篇集『遠縁の女』(青山文平著、文藝春秋)に収められている『遠縁の女』は、ミステリアスな時代小説です。

「私」こと23歳の片倉隆明は、藩の徒士頭を務める父から勧められて武者修行に旅立ちます。

隆明の遠縁に当たる「信江は、御城で右筆を務める市川政孝様の娘で、今年、ちょうど20歳になった。城下ではとびきりの美形で聞こえており、その手の話題ともなれば、嫁取り前の男どもの口に名が上らぬことはない」。「実は、信江の美しさというのは妹と重ねるような和んだものではなく。猛々しいほどに艶いており、時折、ぞっとさえする。求めて手を伸ばせば、すっと掻き消えて、不意に現れた奈落の底に向かって墜ちていきそうな気にさせられる。私が余裕を残した顔で対することができるのはひとえに縁戚だからであり、付け加えるなら、信江が歌を詠むからだ。和歌を詠む限り、信江から溢れ出そうとする女も、歌人という世の中に定まった枠に幾分なりとも塞き止められる」。

「御国の箱の道場に閉じこもっていた私にとって、剣の旅は想いの外のものに満ち溢れていたわけだが、なかでも、なにが最も想いの外だったかと問われれば、それは人に尽きた。当初、若い私は、寛政の御代に武者修行に出る者など、ろくな輩ではあるまいと、己れをさておいて、思い込んでいた。いまどきめずらしく恵まれた門閥の子弟の、物見遊山程度なのだろう、と。しかし、剣の終わった時代に剣の旅に出る者が、半端であるはずもなかった。むろん、すべてとは言えぬ。が、覚悟を持って日々を送る修行者は、想っていたよりも遥かに多い。武威が衰えているからこそ、よけいに武威を究めようとするらしく、一様にのめり込む者たちで、まさに、剣より外のもろもろを忘れ、四六時中、見知らぬ己れを知ろうと努めていた」。

病で父が急逝したとの知らせを受け、武者修行を5年で切り上げて国元に帰ってきた隆明を待ち受けていたのは、思いもかけない事態でした。信江の父と、隆明の武者修行中に信江の婿となっていた隆明の親友・菊池誠二郎が切腹してこの世を去っていたのです。そして、信江は隣国で暮らしているというのです。

何ゆえにこのようなことになったのか、隆明は探ろうとしますが、誰も語ろうとせず、謎は深まるばかりです。しかし、やがて、隆明にも関わりのある恐るべき密謀が明らかにされていきます。