榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

アイヌ語起源の北海道の地名に寄り添い、視覚化した写真集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(140)】

【amazon 『露口啓二写真集 ICANOF2009』 カスタマーレビュー 2015年8月12日】 情熱的読書人間のないしょ話(140)

真夏の雲は、自由気ままに振る舞っていて、羨ましい限りです。

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閑話休題、『露口啓二写真集 ICANOF2009』(豊島重之編、ICANOFパブリッシング。出版元品切れだが、amazonなどで入手可能)の露口啓二は不思議な写真家です。

「北海道に現存する地名の大半はアイヌ語に起源を持つといわれます。諸説あるものが多く、その根拠も曖昧なものが少なくありません。しかし、地名の正確な起源を探るということではなく、かつてその地がある『音』で呼ばれ、それが変化しつつも『漢字表記』され、現在その土地の『地名』として使用されているということに視線を向けてみたいと思います。・・・私になし得ることは、ひたすら『地名』に寄り添い、その地の『風景』を写し取ることのみです。『地名』の起源の根拠を視覚化することは、まさしく表象的な行為といえます。喪失感と均質感を日常とした空間内に『地名』あるいは『その起源』という表象を持ち込むことで、そして『風景』として写し取ることで、その場所にかすかなゆがみをもたらす、私の採取作業はその繰り返しであります」。この写真集は、露口の熱い思いと弛まぬ実践の結晶そのものなのです。

写真のキャプションは、漢字表記地名、その音のローマ字表記、起源となるアイヌ語のローマ字表記、その意味という順になっています。

木々が茂る小山の上の鳥居とそれに続く細い階段の写真(安骨、Ankotsu、chasi-kot<砦・跡=fort,site>、2002、2003)は、非常に印象的です。

小さな水溜まりに木々が姿を映している写真(追名牛、Oinaushi、o-inau-us-i<そこに・木幣が・立っている=prayer utensils,stand,>、2002、2002)は、心に響くものがあります。

林の中を流れる川が僅かに見える写真(雨煙別、Wenbetsu、wen-pet<悪い・川=bad,river>、2001、2001)は、癒やす力を秘めています。

濃厚な緑の奥に佇む鳥居と赤い社(やしろ)の写真(利尻富士町本泊、2009、オホーツク)には、妙に懐かしさを感じます。