榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

ベニシアが作り上げた素敵な庭に癒やされる一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2116)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年1月28日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2116)

深々と牡丹雪が降っています。

閑話休題、『ベニシアと正、人生の秋に――正ありがとう。すべて、ありがとう』(梶山正、ベニシア・スタンリー・スミス著、風土社)では、イギリス出身のベニシアと、9歳年下の梶山正の結婚生活が時系列で綴られています。

1992~1995年=二人の出会い、結婚、1996~2000年=京都大原、古民家での暮らしが始まる、2001~2010年=ベニシアの庭、僕の山、2011~2013年=家も変わり、ベニシアも変わる、2014~2019年=住まいと人の輪・・・大きな家族――のいずれも興味深いが、私が目を惹きつけられたのは、ベニシアが作り上げた素敵な庭です。

●杉苔に覆われ、庭石が置かれていた日本庭園。庭好きなベニシアの手によって和洋折衷のハーブガーデンに生まれ変わった。
●座敷から眺めた我が家の庭。白いアナベルと黄色いキンシバイ。紅色のモミジと緑のコントラストが美しい。
●ゼラニウムやナスタチウムの花を咲かせ、スペイン風にデザインした裏庭。
●裏庭の真ん中にある井戸に蓋をして、テーブルのような台をつくった。後に、ここが庭仕事の作業台となる。
●ベニシアが幼い頃に過ごしたスペインのパティオでの体験を思い出し、スパニッシュ・ガーデンと呼ぶことにした。
●夏の間に収穫したハーブは束にして数日間陰干す。こうして保存し、ハーブが少ない時期に備えておく。
●庭の通路に石畳をつくる僕。
●石垣の石と石の間に植えたムスカリ。
●妖艶に咲くジギタリス。
●夕方にはワイングラスを傾けるワイン色の庭。
●ポーチの日除けに植えたホップを剪定するベニシア。雌花を摘んで乾燥させて手づくりビールの材料に使う。
●塩漬け発酵のバラの花びらのポプリに、ラベンダーの花穂を飾るベニシア。
●古い家には年代物の家具がよく似合う。水屋箪笥とつづら(竹製の収納箱)。
●古いガラス窓は表面が波打っている。窓越しの庭の花たちもゆがんで見えて楽しい。
●梅の花が咲く3月の庭。6月には梅の実を収穫して梅酒を仕込む。
●冬の間、庭仕事は少ないが、3月になると寒さが緩んでくる。すると植物だけではなく、人間も庭で活動することになる。
●秋が深まると寒い冬に備えて。薪ストーブに使うためのたくさんの薪が軒下に並ぶ。
●大原を流れる高野川の岸辺で、春の訪れを告げるネコヤナギの花穂。
●庭に野鳥の餌を置くコーナーを設けている。ピィーヨ、ピィーヨと鳴くヒヨドリが来た。
――これらの写真には、本当に癒やされます。

巻末の「2019年=いまの暮らし」で、ベニシアがPCA(後部皮質萎縮症)と診断されたことが明かされています。「この病気を治す治療法は今のところなく、病気の進行速度を緩める薬を飲み続けるしかないと医者は言う。進行性の病気なので、萎縮は後頭葉だけでなく大脳各所にも広がっていく。つまりアルツハイマー病の一種であろう。・・・美味しい食事は、目が見えないベニシアにとって重要だと思うし、僕はそれをつくるしかない」。