榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

自滅する大都市を救う処方箋とは・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2124)】

【読書クラブ 本好きですか? 2021年2月5日号】 情熱的読書人間のないしょ話(2124)

動きがすばしっこいエナガの群れを何十枚も撮ったのに、ちゃんと写っているのは、この一枚だけでした。

閑話休題、『自滅する大都市――制度を紐解き解法を示す』(織山和久著、ユウブックス)は、解剖、病理、モデル、治療といった4つの観点から現在の都市を分析し、人間のための都市、分け隔てのない社会のあり方を探ろうという意欲的な試みです。

●東京五輪に公益性はあるのか?
「五輪を東京で開催するのであれば、国際人権条例の批准および平和構築への貢献、独立採算のための民間主体の組織委員会の設立と運営、公的意思決定過程の確立、を揃えることが必要条件だと考えられます。これらを満足させることができそうもない都市が誘致し、利権まみれで放漫財政の政府の介入を許してしまっているのが現状ですから、それこそ五輪は再開発のダシ、放漫経営でツケは将来に回る、という羽目になるのは当然かもしれません」。

●木造密集地域での地震火災はどれくらい危険なのか?
「(東京都中野区大和町地区を例に挙げると、延焼過程)ネットワークの3,215棟のうち1棟から1カ所でも出火すると、全体に延焼が広がります。・・・大地震が起きた場合にこの地区一帯に火災が広がる確率は約90%に及びます。延焼の広がる速度はシミュレーションによれば1時間で600~700棟にも及び、とても消火活動で対応できるものではありません」。

●車が道路空間を無駄遣いしていないか?
「都区部における自動車道路網の整備は、都市空間をいたずらに無駄遣いするだけと言えます。地震火災時の消防車両による消火活動には焼け石に水、というのが実情です。道は人のために、都市交通は、徒歩・自転車、そして路面電車、バス、地下鉄等の公共交通に委ねるのが道理というものです」。

●統合型リゾート(IR)は都市に必要か?
「たとえば横浜市の(IRの)募集要項には、創造都市やインナーハーバー構想といった長期ビジョンには言及がありません。都市の中心にもかかわらず、都市と無縁の巨大建築オブジェが乱立する予想図は異様です。本来、計画は都市構想や戦略に適って、地域独自の魅力を引き出すものでなければ成功はおぼつきません。ろくにスキルもないまま、IRと称してどこでもできそうな施設を並べても、圧倒的な資金力のあるドバイや『緑園都市』以来の長期構想に基づくシンガポールに対して差別化はできないでしょう」。

「そもそもカジノの裏の目的は、マネーロンダリングです。麻薬取引、脱税、粉飾決算、賄賂などの犯罪によって得られた資金をギャンブルにつぎ込んで負けたフリをし、別のところで仲間が同じだけ勝ったように運営側が仕組めば、マネーロンダリングができる訳です。自治体にもコンプライアンスが求められる時代ですが、マネーロンダリングを黙認するのでしょうか。またカジノの依存症対策も矛盾そのものです。パチンコ問題でも知られていますが、ギャンブル依存症は脳の報酬系回路自体を変質させ、これを回復させるのにはたいへんな時間も労力も掛かります。覚醒剤依存やアルコール依存から社会復帰するのが難しいのと同様です。この依存症に持ち込むノウハウが事業者の持ち味なのに、その事業者に依存症対策を依頼するというもまったく不可解と言えます。なにより、カジノは地域振興の万能薬ではありません。人口4万人のアトランティックシティは、トランプ大統領が四半世紀掛けて築いたカジノリゾートです。しかし運営会社は数千億円もの投資に対して一度も黒字を出すことなく次々と破綻し、8,000人の雇用が失われて、今ではゴーストタウンと化しています」。

「政権はカジノを成長戦略の柱、観光先進国の実現を後押しすると位置付けていますが、結局のところ莫大な利権の塊になることは目に見えています。・・・こんな愚かで汚い賭けはやめ、仕切り直しをすべきです。カジノに頼らなくても、人口数万人の自由都市をつくるという構想にし、職住近接の暮らしも余暇も楽しめる低層の魅力的な現代版町家の街並みを構成することも可能です。横浜のように規模も歴史もある都市であれば、カジノや娯楽に依存せずに、創造型産業を発展させられるでしょう。こうした街並みが100年も経てば、活きた都市遺産として世界中から人びとを惹き付けることにもなるでしょう」。

●自滅への道を転じ、知恵と工夫で乗り越えた未来の都市を探るには、どのような課題をクリアすればよいのか?
▶財政負担なく木造密集地域が不燃化され、大火災の危険性がない。
▶風環境。温熱環境が快適になり、景観も整う。
▶歩きたくなる、憩いたくなるような豊かな共有空間が広がる。
▶職住近接で、時間的にも暮らしにゆとりができる。
▶コモンズ(共同で所有し管理する土地)として都市空間が十分に活かされる。
▶地域のつながりが支えになる。
▶困ったときも困る前にも、助けになる社会保障がある。
▶理不尽な不公平さがなくなる。
▶地球温暖化、免許独占、国際紛争などに対応できる。

しっかりしたデータに基づいた、説得力のある一冊です。