榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

俳句が面白くなる肝は、俳句単体ではなく句会にある・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1706)】

【amazon 『俳句は入門できる』 カスタマーレビュー 2019年12月17日】 情熱的読書人間のないしょ話(1706)

東京・台東のアメ横で、正月料理の必需品を求めました。因みに、本日の歩数は10,169でした。

閑話休題、TBSテレビで放送されている『プレバト!!』の「俳句の才能査定ランキング」に俳句熱を煽られ、査定する俳人・夏井いつきの小気味よい指導によって、俳句の面白さ、奥深さに目覚めた人も多いことでしょう。私にとっても大いに勉強になっているが、夏井の添削後の作品よりも添削前の句のほうが味があっていいのに、と思うことも時たまあります(生意気と言われそうですが)。

俳句は入門できる』(長嶋有著、朝日新書)は、俳句上達のための入門書ではありません。「僕は結社に入らず、新聞やテレビにも投稿せず、我流で勝手に俳句を作ってきた」。俳人ではあるが、俳句界のど真ん中からは外れている著者ならではの主張は、3つにまとめることができます。

第1は、俳句の基本的ルールを学んだ後は、俳句は自分が楽しめればいいと開き直れということ。「俳句の世界にもセオリーとか、悪手というものはあって、それは『教える』ことができる。それを習得できなくて悪手を繰り返すのだとしたら、それは素質の問題だ。対するに『分かったけどこうよみたいんだもん』というのは、意志の問題だ。上達してなお『こうよみたい』とはいかないものなのか?」。「名句になる可能性は低くても、トライできる。それが俳句の特性だ」。

第2は、一人でコツコツ俳句作りに精進するのもいいが。句会に参加すると腕が上がるよということ。「俳句が面白くなる肝は俳句単体ではなくて『句会』にある。・・・緊張感のあるメンバーで真剣に、かつ楽しく議論できる。そういう『場』があればこそ、句を作るときも慎重に、または大胆になれるだろう」。

第3は、今の俳句の世界に足りないものを喝破していること。「今の俳句の世界に欠けているものは、『優れた俳句』でも『若手の存在』でもない。『優れた俳句を紹介する存在』や『批評』でもない。欠けているのは『逸話』だ。・・・縁遠い世界をちょっと奥深い、豊かなものに感じる。世界的ベストセラー『ハリー・ポッター』第1巻の初版がわずか数千部だったとか、『赤毛のアン』は何社に持ち込んでも出版を断られたという『逸話』は、それらテキスト(の価値)と無関係のことだ。でも、知られている。なぜか。それらの『逸話』は作品を受け止める人々をほほうと感心させ、立ち止まらせ、親しみやすくさせ、なにより『記憶』させ、そして自分達の(価値の不確かな)世界と地続きのものに感じさせるから」。「ただ『作品』や『評』だけが潔癖に並ぶのでない、生身の人間同士が悩んだりぶつかったりしている『現場』がそこにあるんだ、と伝わる『逸話』だ」。

なお、引用されている句で、私がいいなと思ったのは、次の作品です。
●ラガー等のそのかちうたのみじかけれ(横山白虹)
●小春日や呪いの面を修理する(北野勇作)
●石槨の天井石へ秋の虻(松本だりあ)