ウィリアム・シェイクスピアが後進の作家たちに与えた影響力の強さ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2944)】
キンシバイ(写真1~3)、アジサイ(写真4)、カシワバアジサイ(写真5)、ドクダミ(写真6)が咲いています。東京・杉並の荻窪で開かれた杉並区立松溪中学校の同期会で、楽しい一時を過ごすことができました。我が家の庭では、バラ(写真7)、サツキ(写真8)が咲いています。因みに、本日の歩数は13,287でした。
「一番の至福の時は?」と聞かれたときは、こう答えています。「好きな絵や写真に囲まれた書斎で、好きな音楽を聴きながら、好きな本を読んでいる時」。その写真のうちの一枚が、ツツジの季節の散策中に撮った39歳だった女房のスナップショットです(写真9)。
閑話休題、『変容するシェイクスピア――ラム姉弟から黒澤明まで』(廣野由美子・桒山智成著、筑摩選書)で、とりわけ印象深いのは、ウィリアム・シェイクスピアが後進の作家たちに与えた影響力の強さです。
●ジェイン・オースティンの場合
「オースティンがシェイクスピアに親しみ、この劇作家を敬愛していたことは、彼女の小説の随所にシェイクスピアからの引用がちりばめられていることからも、うかがわれる」。
●チャールズ・ディケンズの場合
「前世紀に誕生したばかりのイギリス小説は、早くも19世紀のヴィクトリア朝時代に黄金期を迎える。この時期に最もシェイクスピアを意識していた作家は、チャールズ・ディケンズであったと言えるだろう。・・・終生シェイクスピアに関わり続けたディケンズは、自分のことを、『シェイクスピア追従者として、はるか後ろのほうから、言うに値しないほどわずかにその足跡を辿っている者』と呼んでいる。・・・当然ながら、ディケンズの作品には、テーマや人物造形、表現など、さまざまな面でシェイクスピアの影響が見られる。・・・ディケンズは、『劇』を巧みに小説に溶け込ませた作家であるという点で、シェイクスピアを最もよく理解していた小説家と言えるかもしれない」。
●ジョージ・エリオットの場合
「ヴィクトリア朝小説の中から、もう一例として、女性作家ジョージ・エリオットの中編小説『サイラス・マーナー』を取り上げておこう。これは、過去に親友と恋人に裏切られ、すっかり人間不信となった男サイラス・マーナーの再生の物語である。・・・(物語の転換点となる)希望の象徴としての子供の登場と同時に叫ばれる『ゴールドだ!』という言葉は、シェイクスピアの物語の言葉と反響し合い、深い意味合いを帯びるのである」。
●ジェイムズ・ジョイスの場合
「(ジョイスの)『ユリシーズ』には、しばしばシェイクスピアへの言及や作品からの引用が見られる・・・ハムレットの独白と『ユリシーズ』中の独白は、意外にも近接していると言えるのではないだろうか」。
●オルダス・ハックスリーの場合
「オルダス・ハックスリーのディストピア小説『すばらしい新世界』は、シェイクスピアの『テンペスト』の中のミランダの台詞から、題名が引かれている。・・・(登場人物の)ジョンは12歳のとき母親にシェイクスピア全集を与えられて以来、ひたすらそれを読みながら育つ。こうして青年ジョンは、自分の考えや気持ちを、すべてシェイクスピア劇の言葉で表現するようになったのである」。
●アガサ・クリスティの場合
「『ミステリーの女王』と呼ばれるアガサ・クリスティは、シェイクスピアの熱心なファンで、生涯にわたり、彼の作品を読んだり、芝居を見に行ったりし続けたという。その影響は、クリスティの作品にもさまざまな形で現れている。・・・クリスティは、作品中でもしばしばシェイクスピアに言及したり、引用句を織り込んだりしている」。
●ルーシー・モンゴメリの場合
「(『赤毛のアン』で)『名前は?』とマリラに尋ねられたとき、彼女(アン)は『私をコーデリアと呼んでいただけませんか?』と熱心に頼む。・・・本好きで、物語の空想の中で生きてきたアンが、『このうえもなく優雅な名前』だと思っているコーデリアとは、シェイクスピアの『リヤ王』の末娘のことを指しているようだ。父王に誤解されて悲劇的な人生を歩んだ、この心美しい女性のイメージから、アンはこれまで孤児として苦労してきた自分の不運を重ねつつ、空想の中でコーデリアを演じたいと思っていたのだろう。・・・この作品には、シェイクスピア作品の台詞が随所にちりばめられている」。
●夏目漱石の場合
「作品(『虞美人草』)では、甲野藤尾という新しいタイプの女主人公が登場し、複雑な人間心理が描かれているが、この女主人公の造形にあたって、漱石はシェイクスピアの『アントニーとクレオパトラ』を用いている。・・・近代的な女性像を創造する際に、漱石はシェイクスピアが古代を舞台に描いた強烈な女主人公(クレオパトラ)像からヒントを得たとも言えるだろう」。
●J・K・ローリングの場合
「イギリスの作家J・K・ローリングの『ハリー・ポッター』シリーズは、子供のみならず大人にも親しまれている空前の世界的ベストセラー小説であるが、この魔法と復讐の物語世界に、シェイクスピアの『マクベス』や『ハムレット』を連想させる雰囲気やストーリーがちりばめられていることは、容易に見て取れる」。
メアリ・ラムとチャールズ・ラム姉弟の共作による『シェイクスピア物語』の特徴を、著者は2つ挙げています。1つは、この作品が子供たちのために書き換えられたシェイクスピア作品の簡略版であり、児童文学のジャンルに属すること。もう1つは、本来「劇」の形式で書かれたシェイクスピアの作品を散文形式に書き改めたこと。つまり、シェイクスピア劇が小説の形に移し換えられたこと。