榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

橋田壽賀子の老年期の生き方、死に対する考え方に強く共感・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1747)】

【amazon 『人生ムダなことはひとつもなかった』 カスタマーレビュー 2020年1月26日】 情熱的読書人間のないしょ話(1747)

シンビジウムの花、キンカチャの花、コーヒーノキの実、バナナの実、キイロスズメバチの使用後の巣をカメラに収めました。因みに、本日の歩数は10,088でした。

閑話休題、『私の人生に老後はない。――今日一日を満足して生きるコツ』(橋田壽賀子著、海竜社)、『人生の流儀』(高村薫・倉本聡・橋田壽賀子他著、新日本出版社)、『恨みっこなしの老後』(橋田壽賀子著、新潮社)などを通じて、橋田壽賀子の仕事、結婚、戦争、老年期、死――に対する考え方に共感を覚えてきた私だが、今回、自叙伝『人生ムダなことはひとつもなかった――私の履歴書』(橋田壽賀子著、大和書房)を読んで、その感を一層強くしました。

「私は若くして両親を亡くしている。一人っ子なのできょうだいもいない。そしてたった一人の家族だった夫を、こうして(肺腺がんで)失った。本名、岩崎壽賀子。94歳。脚本家。天涯孤独」。

「私の世代は、結婚相手になりそうな年ごろの男の多くが戦争で亡くなっている。自分の(41歳という)年齢や容姿を考えて結婚は諦めていたところに(5歳年下の岩崎)嘉一が現れた。私の中で『嘉一と結婚したい』という想いが膨らんできた。そんな気持ちになったのは初めてだった。恋と尊敬が混じり合ったような感情だった」。

「テレビの世界では視聴率は絶対的なものと思われている。しかし私はあまり気にしない。私が書くものは辛口ドラマと呼ばれるようになるのだが、確かにドラマで問題提起をして、視聴者の共感を呼ぶのは容易ではない。でも①身近なテーマ、②展開に富んだストーリー、③リアルな問題点――この3つの要素を持っていれば、必ず視聴者の心をつかむことができる」。

「夫から『壽賀子がお母さんのこと書いているよ』と聞かされていた義母は、自分が(『おしん』の主人公の)モデルと信じていた。ヤオハンの和田カツさんもそうだったかもしれない。『母たちの遺産』で取材した女性の中に、そう思っていた人がいても不思議ではない。ヒントはいただいたが、モデルはいない。いるとすれば、それは苦難の時代を生き抜いてきた『日本の女たち』だ」。

「(『渡る世間は鬼ばかり』の)登場人物がどんどん増えて、作者の私にも誰が誰やらわからないときがある。そこで頼りになるのが、スタッフが作ってくれる家系図だ。登場人物も私たちと同じように年齢を重ねるので『いまは何歳で、何をしている』などとメモしてある。これがないと書けなくなった」。

「『おしん』で、奉公先を逃げ出した幼いおしんは、雪の中から俊作(中村雅俊)という若い男に助けられる。俊作は日露戦争で戦争のむなしさを痛感した脱走兵だった。おしんに読み書きや計算を教える傍ら、与謝野晶子の『君死にたもうことなかれ』を読み聞かせる。結局、俊作は憲兵に見つかって射殺されるのだが、おしんは俊作から学んだ反戦の思いを終生持ち続ける。『戦争と平和』。それが私が生涯追い続けたもう一つのテーマだった」。

「日本国内でも空襲で命を落とした大勢の人々がいた。原爆で一瞬のうちに命を奪われた人々がいた。沖縄戦で亡くなった若い男女もいた。戦争がもたらしたものは悲しみだけではなかったか。人は人を殺してはいけない。だから私は殺人事件をテーマにしたドラマを書いたことがない」。戦争は悲劇しか生まないというのです。

「この2月(2019年)、私はクルーズ船での旅の途中、大量の下血のためにベトナムの病院に運ばれ輸血を受けた。『マロリー・ワイス症候群』という病気だった。高齢になると、いつ何が起こるかわからない。いわゆる終活はずっと前からやっていて、全ての財産は橋田文化財団に行くようになっている。葬儀もしないでと言ってある。静かに消えていき、忘れられたい」。