榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

暗渠に恋するアニマックな二人の蘊蓄全開の探訪記・・・【情熱的読書人間のないしょ話(154)】

【amazon 『暗渠マニアック!』 カスタマーレビュー 2015年8月25日】 情熱的読書人間のないしょ話(154)

散策中の風に秋の気配を感じました。まさに、古今和歌集に載っている藤原敏行の「秋来ぬと目にはさやかに見えねども風の音にぞおどろかれぬる」、そのものです。栗林では、まだ青い実が多いのですが、落ちている茶色のものもありました。

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閑話休題、『暗渠マニアック』(吉村生・髙山英男著、柏書房)は、何ともマニアックな一冊です。暗渠、すなわち、地面から水の流れが見えはしないけれど、地下や蓋の下の暗い所を流れている水路をこよなく愛す二人が蘊蓄を傾けているのです。

「近代から現代に至るこの100年は、水の都・東京から水が消えていく『暗渠化の時代』だったといえる。江戸から東京への移行に伴う明治期の都市改造、大正期の関東大震災からの復興、および太平洋戦争からの復興などの過程で、東京の水辺を覆う、いくつもの『大波』が押し寄せた。だが、最大のインパクトは、昭和30年代の高度成長期であったろう。経済が急成長し、東京が世界有数の近代都市へと変貌を遂げるのと引き換えに、山の手をはじめとする多くの川が水面を失くしていった」。

暗渠を探すときのヒントが挙げられています。①周囲より低い所に続く、抜け道のような細い道、②湿気の多い道の周辺で存在を主張する苔、③遊歩道・緑道・鰻の寝床のような公園、④車止め、⑤道に連なるマンホール、⑥車道に比べてあからさまに幅の広い歩道――の6つです。

「暗渠を見る、聴く、歩く――暗渠をどう捉えるのか。路地を歩く、とはどういうことなのか。それぞれのスタンスを示しながら、著者があなたを暗渠へと誘う。見えない水辺を歩き、新しい景色を、埋め込まれたせせらぎを感じてみよう」。

書者が「恋に落ちた」と自ら表現する東京・杉並区の2つの暗渠を探訪する件(くだり)を読んでいて、思わず目を瞠りました。桃園川の暗渠は、私が育った荻窪の家のすぐ近くを通っているではありませんか。そして、もう一つの松庵川の暗渠も、私たちの遊び場であった荻窪公園や柳窪を通っていることを知ったからです。

暗渠歩きの愉しみは、①隠れていた「ネットワーク」が見えてくる、②埋め込まれた「歴史」が見えてくる、③見過ごしていた「景色」が見えてくる――ことだというのです。

暗渠沿いには銭湯が多いとか、「(東京・)神楽坂の近くにある、幻といわれる中世の城も、周囲の自然河川を時には少し手を加えつつも、上手に使っていたようだ。牛込城を取り囲むお濠たちは、どんな面々だっただろうか。中世のものなので居館中心の素朴な建物ではあるが、頭上に城があったという視点で、濠としての暗渠を歩いてみたいと思う。牛込城の規模や位置などについては確定が難しいそうだが、一応最も有力な説として、牛込城本丸の位置は今の光照寺一帯といわれている」といった興味深い情報も紹介されています。私が長く勤めた会社の近くに中世の城があったとは知りませんでした。早速、訪ねてみます。