榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

引き上げてくれた織田信長に、荒木村重が叛旗を翻したのはなぜか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(560)】

【amazon 『傀儡に非ず』 カスタマーレビュー 2016年10月12日】 情熱的読書人間のないしょ話(560)

今日は、絶世の美女と2時間近い時間を共有することができました。ドキュメンタリー映画『イングリッド・バーグマン――愛に生きた女優』に登場するイングリッド・バーグマンの美しさに酔い痴れました(今回は、女房は他用で別行動)。かつて読んだバーグマンの自伝『マイ・ストーリー』と重なる内容でしたが、やはり映像の迫真性は格別です。

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閑話休題、織田信長に重用され、摂津一国を任された有力武将・荒木村重が突如、信長に叛旗を翻したのはなぜか、この長年の疑問が解けるかもという期待を抱いて、『傀儡(くぐつ)に非ず』(上田秀人著、徳間書店)を手にしました。

「和田惟政を一蹴し、郡山城、茨木城を奪取した村重の武名は、天下に響いていた。(主家の)池田の家中での人望も厚かった」。

主家を乗っ取った村重は、これぞ天下の覇者と見込んだ敵陣営の総帥・信長に仕える道を選択します。「『今よりお味方つかまつり、忠節を尽くしまする。つきましては摂津国十三郡を、我が切り取り次第として仰せつけられるべく願い奉る』。村重は信長に味方する代わりに、摂津一国を好きにさせて欲しいと願った」。

「織田信長の下に入った荒木村重に休む暇は与えられなかった」。

「そもそも織田の強さは、金にあった。商業をうまく利用した信長は、織田に莫大な富をもたらした。その金で、本来は農閑期に徴兵する百姓足軽を、農作業から分離し、絶えず利用できる兵にした。こうすることで、十分な練度を得ることができるようになり、弱いので有名だった尾張兵を、鍛えあげた。少し敗色が見えただけで逃げ出していた尾張兵が踏ん張るようになった。さらに信長は金にあかして、鉄砲を揃えている」。

「村重は、信長の配下としては、まだ新参である。新参者はどうしても軽く扱われるし、もっとも最初に切り捨てられる。村重を捨てるには惜しいと思わせなければ、織田のなかで生き残り、さらに出世していくことはできなかった」。「池田氏から三好と主家を代えた村重は、信長の許しを得て織田の直臣へと籍を移したばかりである。家中の目は厳しい」。「結果を出せば、出自など関係なく抜擢するのが信長である。だが、ぎゃくにあるていどの地位にありながら、結果を出さない者には、非常に厳しかった」

「(村重の息子の)新五郎村次は、明智光秀の娘を妻に迎え、信長の覚えもめでたい武将である。伊丹の支城の一つ、大物城の城主をしていた」。

「『乱世を終わらせた後、どうなる』。村重は不安であった。『覇を唱えるには武がいる。だが、天下安泰を維持するには仁がなければならぬ』。人心を一つにまとめなければ、天下は続かない。人の心が揺れれば、世も落ち着かなくなる。明日があると確実に信じさせ、穏やかに過ごさせるには、優しさが必須であった。『上様(信長)にはそれがない』」。「信長の恐ろしさが身に染みていた。『道具として使い捨てられるのではないか』」。

村重の信長に対する突然の謀叛の背景、そして、信長によって女、子供に至るまで一族郎党が虐殺される中、己一人が生き延びた理由は何だったのか――著者の説は意外なものですが、それなりの説得力を備えています。

飽かせぬストーリー展開に引きずられて、一気に読み通してしまいました。