榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

松本清張らしさが凝縮している歴史小説の短篇・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1579)】

【amazon 『松本清張傑作選――悪党たちの懺悔録』 カスタマーレビュー 2019年8月14日】 情熱的読書人間のないしょ話(1579)

あちこちで、ゴーヤーが実を付けています。クリの緑色の殻斗が目を惹きます。因みに、本日の歩数は10,797でした。

閑話休題、時折、無性に松本清張の作品が読みたくなります。『浅田次郎オリジナルセレクション 松本清張傑作選――悪党たちの懺悔録』(松本清張著、新潮文庫)に収められている『啾々吟(しゅうしゅうぎん』は、清張らしさが凝縮している歴史小説の短篇です。

「予(=私)」、松枝慶一郎は、幕末、肥前佐賀の鍋島藩家老の息子として生まれました。藩主の嫡男と、軽輩の御徒衆の息子・石内嘉門も同年同月同日に生まれました。

「『皆はおれを相手にせんようじゃ。だからおれも皆を相手にせんよ』と、嘉門は予に寂しく笑うこともあった。むろん、やるかたない忿懣が含まれていた。『おれが、軽輩のせがれだからだろう』とも嘉門は言うのだ。それもあるかもしれない。が、それだけだろうか。何か嘉門に人好きのせぬものがあるのではなかろうか。予は(師の)佩川の言った言葉を思いだした。『あれは可愛気のない男だ』と言う。あれほど熱心によく出入りした佩川からもついにはこう言われている。どこが皆に嫌われるのかわからなかった。ただ、嘉門の性格は、孤独的で、自らを恃んでいるふうがないでもない。が、狷介というほどではない。むしろ人のよい男なのだ。皆に容れられないのが、不思議だった。が、(同年同月同日生まれの)主君も佩川も初めは嘉門によかった。それがしだいに疎んじてきた。彼は理由もなく、他人に見放されるという、そういう宿命的な性格を持っているのではなかろうかとさえ疑った」。

予の許嫁の千恵に、予の許嫁とは知らずに嘉門も思いを寄せていたため、予の結婚を知った嘉門と予の友情は壊れ、嘉門は脱藩してしまいます。「予は、嘉門が周囲に容れられず、常に孤独であるのに同情していた。その同乗者である予が、はからずも彼の頭上に最後の打撃を与えたことになった。予は嘉門に何とも言えない心の負担を感じた。しかし、才能に恵まれ、覇気のある嘉門のことだから、別天地で自分の運命を拓くかもしれない。佐賀藩では不遇だった彼も、別な世界では、あんがい頭角を現わして、世に出るのではなかろうか。そうすれば、いわゆる禍もまた福に転ずるわけだ――予は、そう思って、わずかに自分をなぐさめた」。

そのうち明治維新となり、嘉門が失踪してから25年の歳月が流れた時、予は意外な場所で変わり果てた嘉門に再会するのです。そして、戦慄の結末が・・・。