離島の本屋だって頑張ってるぜ・・・【山椒読書論(380)】
『離島の本屋――22の島で「本屋」の灯りをともす人たち』(朴順梨著、ころから)には、北は礼文島から南は与那国島まで、22の離島で本屋に灯りをともす人たちとの出会いが綴られている。
例えば、長崎県五島列島の中通島の酒屋&本屋のクラークケントは、こんなふうだ。「長崎港からフェリーに乗り、福江島を経由して約2時間。中通島の奈良尾港に到着した。・・・『何でもはないけど、いいものあります』を密かにキャッチフレーズにしているとおり、書棚には草柳大蔵が書いた人生訓『花のある人 花になる人』(グラフ社)や、西日本新聞社がまとめたブックレット『食卓の向こう側』などなど。ベストセラーだけではなく、(店主の原口)麻里子さんが読んで感銘を受けた本も並んでいる。・・・クラークケントの売り上げも、今では本よりお酒がメインになっているそうだ。でも麻里子さんがいる限り、きっとこの島から本好きが消えることはないだろう。だってこの店に並んでいる本には、そのほとんどに血が通っているから。2006年3月」。
広島県生口(いくち)島の友文館。「現在の売り上げは本が半分、CDと文具販売、レンタルソフトの売り上げが残り半分。友文館は島で暮らす人のために、本に限らず広く文化を発信しているのだ。・・・(店主の)根葉(博文)さん曰く『あんまり売れない』がビジネス書コーナーもあり、『人を動かす』のデール・カーネギーをはじめとして、これが結構充実している。『ビジネス書は売れなくても、必ず置いておきたいんです。だって本屋だから』。品揃えに偏りがあったら、本屋とは呼べなくなってしまう。だから売れなくても置く。この島のビジネス書は『売れない一冊』に見えても、実は『そこが本屋であるために必要な、みんなのための一冊』なのかもしれない。2006年12月」。この店主の心意気が嬉しいなあ。
愛媛県の、隣の2島と合わせても人口約3600人の小さな島、弓削島のはなぶさ書房。「近所に学校があるせいかコミックと雑誌が多いが、書籍もなかなかの品揃え。時には、(店を手伝っている店主の兄嫁の)玲子さん発信の島内ベストセラー(と言っても、10冊余りだが)が生まれることもあるそうだ。・・・はなぶさ書房が力を入れているのは、ハードカバーだけではない。岩波新書や講談社ブルーバックスなど、新書が棚の1コーナーを丸々占拠している。レジ前にも並ぶほどだ。とはいえこの新書、『バカの壁』や『国家の品格』(ともに新潮新書)みたいなベストセラーはともかく、普段はほとんど動きがない。ではなぜ置くのか? それは(店主の英<はなぶさ>)俊夫さんの好みによるところが大きい。・・・世界中どこにでも、好きな時に好きなだけ出かけるのは、誰にとっても難しい。でも実際に出かけなくても、本で世界を知ることはできる。そう、たくさんの本は時として、一人に力を貸してくれることがある。この島の新書たちは、まさにそれを教えてくれるものだった。2006年12月」。この本屋に並べられる新書たちは、ある意味、幸せだと思う。
各本屋の訪問記の最後に、「あの時、その後」という後日談が添えられている。「はなぶさ書房に電話。俊夫さんとしか話せなかったが、お元気で変わりなく続けていらっしゃるようだ。『忙しいから』とのことで、少しだけお話して受話器を置いた。(ある店が)変わっていくことと、(別の店は)変わっていないこと。そのいずれもが嬉しい。そう思えた」。
どんな本でも大概揃っている大型書店もいいけれど、温かい感じの灯りがともっている街の小さな本屋もいいものだ。だから、そういう本屋を見かけると、つい入りたくなってしまうのだ。