金融界の10大事件が、このように金融リスク管理を変えてきた・・・【山椒読書論(381)】
私のかつての重要な得意先であり、以降37年来の知己である松本先生から『金融リスク管理を変えた10大事件』(藤井健司著、金融財政事情研究会)が送られてきた。
金融リスク管理の専門家である著者が選んだ10大事件――ブラックマンデー(1987年)、G30レポートとVaR革命(1993年)、FRBショックとデリバティブ損失(1994年)、ベアリングズ銀行と不正トレーダー(1995年)、ヘッジファンドLTCM破綻(1998年)、バーゼルⅡとオペレーショナルリスク(2001~2007年)、NY同時多発テロとBCP(2001年)、サブプライムローン問題と証券化商品(2007年)、リーマンショックと金融危機からバーゼルⅢへ(2008年~)、アルゴリズム取引と「フラッシュ・クラッシュ」(2010年)――の内容と、それに対応するための金融リスク管理の足跡が要領よく述べられている。
我々のような金融界の部外者にとっても、断片的な知識を整理し、理解を深めるのに恰好な一冊である。
例えば、「ベアリングズ銀行(正式には「銀行」ではない)と不正トレーダー」は、こんなふうに述べられている。「1995年2月、英国の老穂投資銀行ベアリングズ銀行は、シンガポールの先物子会社の1トレーダーが行った(権限外の)不正トレーディングから生じた巨額損失をきっかけとして経営破綻した」。英国王家との繋がりが深かったことから「女王陛下の投資銀行」と呼ばれ、200年を超える歴史を誇る名門投資銀行の破綻ということで、世界の金融界に大きな衝撃を与えたのである。「こうした損失事象に共通するのは、損益パフォーマンスが直接、報酬や昇格、さらには雇用の継続や解雇に直結する市場業務やトレーディング業務では、発生した損失を隠したいというインセンティブが発生する可能性があるという事実である」。そして、この解決策について、「問題を未然に防ぐ近道となるのは、むしろ、パフォーマンスベースの報酬方針の見直しや損失が発生することを『悪』と思わせず、与えられた枠組みのなかでのありうる結果として、正確な報告を促すことをより是とする『リスク文化』の醸成なのではないだろうか」と言及している。
各事件の最後に添えられている「目撃者のコラム」では、著者の生々しい印象が語られている。「ヘッジファンドLTCM破綻」のそれは、「長年にわたってリスクマネジャーをしていると、市場の動きが不気味に思われることが何度かある。LTCMの破綻前後がまさにこれに当たっていた。ロシア危機後の混乱が続くなか、欧米を中心とした金融市場において、各種商品のボラティリティ(価格変動率)がはね上がり、市場が『壊れていく』ような、何とも気持ちの悪い日々が続いた。胃液があがってくるような相場といったら感じが伝わるだろうか」といった調子で、我々も臨場感を味わうことができる。