米国における野生動物の個人飼育問題の最新リポート・・・【山椒読書論(432)】
「ナショナル ジオグラフィック日本版2014年4月号」に掲載されている「風変わりなペットたち」(ローレン・スレーター著、ビンセント・J・ミュージ写真、日経ナショナル ジオグラフィック社)は、米国における、時に危険を孕む野生動物の個人での飼育を巡る最新リポートである。
実に多様な動物が飼い主と一緒に暮らしている。そうしたペットは「エキゾチック・アニマル」と呼ばれ、米国ではその数が国内の動物園にいる頭数を上回るともいわれている。エキゾチック・アニマルは住宅で飼われている野生動物の総称として使われている言葉だが、明確な定義はない。監視体制も規制もないので、正確な数を把握するのは難しいというのだ。
「現在、個人が飼育している大型動物の多くは、飼育下の繁殖によって生まれた個体だ。ライオンやトラ、サル、クマ。今やシマウマやラクダ、ピューマ、オマキザルでさえインターネットで購入できる時代なのだ、検索すれば、つぶらな瞳でこちらを見つめる動物たちの姿がモニター画面に映し出されるだろう。こうした動物たちは、もはや完全に『野生』とは言えないが、かといって家畜化されているわけでもない。どっちつかずの状態に動物たちを置いていることで、さまざまな問題が生まれている」。
フロリダ州の郊外でカンガルー、キツネザル、キョン、ミニブタ、キンカジュー(アライグマの仲間)、犬を飼っている57歳の女性、レスリー・アン・ラッシュの場合。「ラッシュ自身の暮らしぶりは、至って質素だ。稼ぎの大半は動物たちの餌代にたちまち消えるし、時間もとられる。『年中無休の24時間営業ですよ。でも動物たちはみんな大切な家族で、私を必要としているんです。この感じは言葉では説明できません。朝起きて庭に出ると、動物たちがまっしぐらに私のもとへ走ってくるんです。愛されていると実感できる、最高の瞬間です』」。、
一方、「2011年10月、(オハイオ州)マスキンガム郡ゼーンズビル郊外で、ある事件が起きた。さまざまな野生動物を飼っていたテリー・トンプソンという男が、ライオンやトラを含む約50頭を檻や囲いから解放した後、自殺したのだ。地元の保安官はやむを得ず大半の動物を射殺した。それまでオハイオ州は、エキゾチック・アニマルや野生動物の飼育に免許も許可もいらない州の一つだった」。射殺された動物たちの死骸がトンプソンの自宅近くにずらりと並べられた写真は衝撃的である。
「結局、私たち人間こそが、地球上で最も野生を失い、それでいて手のつけられなくなった生き物なのではないか。エキゾチック・アニマルの問題は、そんあ現実を私たちに突きつけている」という結びの言葉が重く響く。