榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

よく練られた仕組みが個人を変え、組織を変えていく・・・【あなたの人生が最高に輝く時(35)】

【ミクスOnline 2014年1月16日号】 あなたの人生が最高に輝く時(35)

左遷、そして谷底

無印良品は、仕組みが9割――仕事はシンプルにやりなさい』(松井忠三著、角川書店)から学べることが、実に多い。必要に応じて、何度でも読み返すべき経営のバイブルである。経営幹部に限らず、また業種を問わず、ビジネスパースン必読の書である。

著者が、西友から無印良品に出向となったのは、左遷であった。その後、無印良品の社長に就任したのは、同社の業績が悪化し、「谷底に落ちていた時期」であった。「そこで最初に取り組んだのは、賃金カットでもなく、リストラでもなく、事業の縮小でもなく、仕組みづくりでした。簡単に言うと、それは『努力を成果に結びつける仕組み』『経験と勘を蓄積する仕組み』『ムダを徹底的に省く仕組み』。これが、無印良品の復活の原動力になったのです」。

二つのマニュアル

「無印良品の店舗で使っているマニュアル――MUJIGRAM(ムジグラム)。店舗開発部や企画室など、本部の業務をマニュアル化した――業務基準書。この二つの『マニュアル』には、経営から商品開発、売り場のディスプレイや接客まで、すべての仕事のノウハウが書かれています。MUJIGRAMは2000ページ分にも及び、なかには写真やイラスト、図もふんだんに盛り込まれています」。

「無印良品のマニュアルは、現場で働くスタッフたちが『こうしたほうが、いいのに』と感じたことを、積み重ねることで生まれた知恵です。また、現場では毎日のように問題点や改善点が発見され、マニュアルは毎月、更新されていくのです。仕事の進め方がどんどんブラッシュアップされるし、自然と、改善点がないかを探しながら働けるようにもなります」と、自負している。

「決まったことを、決まったとおり、キチンとやる」ためには、経験と勘を排除して、業務を標準化するマニュアルの作成と更新が必要になるというのだ。「そもそもマニュアルは社員やスタッフの行動を制限するためにつくっているのではありません。むしろ、マニュアルをつくり上げるプロセスが重要で、全社員・全スタッフで問題点を見つけて改善していく姿勢を持ってもらうのが目的なのです」。そして、「MUJIGRAMをつくるにあたっては、『顧客視点』(お客様からのリクエスト、クレーム)と『改善提案』(スタッフの気付いた点や要望)の二つを大きな柱にしました」。

仕組みづくりの具体策

売り上げとモチベーションが上がる仕組みについて、著者は、「問題の構造を見つけたら、それを新たな仕組みに置き換える。そうすることで組織の体質は変わり、実行力のある組織になるのです」と述べている。「まずは現場との溝を埋めて、不満に耳を傾け、一緒に解決策を考える――今の時代のリーダーに必要なのはカリスマ性ではなく、現場でも自由にものを言えるような風土をつくり、その意見を仕組みにしていくことです」。

「優秀な人材は集まらない。だから『育てる仕組み』をつくる」、「人は『二度失敗して学ぶ』」、「隠れたムダを見つける+生産性を上げる」、「マニュアルで『人材育成をする人を育成』する」、「『見える化→提案→改善』という循環」、「コンサルタントには組織は立て直せない」、「部下の性格を変える、ではなく、行動を変える」、「リーダーは、『部下が努力をすれば結果を出せる仕組み』を考えなければならない」、「原因が見えた途端に問題の八割は解決する」、「机の上がきれいな会社は伸びる」、「『仕事のデッドライン』を見える化する」、「行き過ぎたホウ・レン・ソウが『人の成長を止める』!」、「18時30分退社を徹底する」、「提案書は『A4一枚(両面)』」、「『形だけの会議』をなくそう」――いずれの主張も、具体的かつ実践的である。仕組みをつくることによって、社長・会長として無印良品の業績を急回復させ、それを維持し続けている著者の言葉だけに説得力がある。

会社を強くする方法

「会社を強くするための『シンプルで、簡単なこと』」は、他者と他社から学ぶことだというのが、著者の信念である。「業界の最前線を走り続ける企業に共通していることは、非常にシンプルです。『挨拶をきちんとする』『ゴミを見つけたら拾う』『仕事の締め切りを守る』といった、小学校で教わるような、人としての『基本のき』が社員に浸透しているかどうか。これが、強い企業に見られる共通点です」。全く、同感である。気力・体力が充実していないと、元気な挨拶はできないからである。

部下のモチベーションを上げる方法

「部下のモチベーションを上げる一つの方法」は、参考になる。「それは、①やりがいを与えること、そして、②コミュニケーションです」。コミュニケーションに関し、「部下が三人いて、一人にだけ情報を伝えなかったら、その人には不満が生じます。すべての部下に等しく情報を伝えるのは基本です。無印良品では『朝礼システム』というものがあります。毎朝、店に社員が出勤してきてパソコンを立ち上げると、画面にその日にやるべき業務や予算目標、伝達事項が自動的に表示される仕組みです。朝礼をシステム化して、情報伝達をシンプルにしているのです。無印良品の場合、会社組織という規模でコミュニケーションを徹底するためにシステム化していますが、部署レベルならメーリングリストで一括して伝達事項を伝える方法で充分かもしれません」と、具体例を示している。

私が若ければ、きっと無印良品で働きたいと思ったことだろう、そんな気にさせる魅力溢れる本だ。