我々も、トップ・エリートが重視する基本を身に付けてしまおう・・・【あなたの人生が最高に輝く時(44)】
トップ・エリート
『世界のエリートはなぜ、「この基本」を大事にするのか?』(戸塚隆将著、朝日新聞出版)は、著者がこれまでに在籍した、著者曰く「世界最強の投資銀行」ゴールドマン・サックス、「世界最高のコンサルティング・ファーム」マッキンゼー・アンド・カンパニー、「世界最上級のビジネス・スクール」ハーヴァード・ビジネス・スクールに共通する基本的な考え方、価値観、仕事の流儀を読者に伝えたいという思いから書かれている。
基本に徹する
「そのエッセンスを一言でいえば、『基本に徹する』ということです」。そして、この「基本」は4つのポイント――①人との「つながり」を大切にする、②「自分磨き」を一生継続する、③「日々の成果出し」に強くこだわる、④「世界的な視野」を常に意識する――から成っている。
人とのつながり
著者は、人との「つながり」に投資せよ、と説いているが、人間関係の基本ともいうべき相手の名前を覚えることについて具体的なコツを紹介している。①自己紹介時に相手の名前を口に出して、自分の口と耳で必ず確認する、②自己紹介が終わった後に、間髪を容れず、相手の名前を呼びかけながら質問をする、③別れの際にも、必ず相手の名前を呼びながら挨拶をする――の3つだ。
「重要なことは、まず自分から本気で相手に関心を持つことです。表面的な興味ではなく、その出会いから何かを学ぶ、新しいことを吸収する、こういった探究心や好奇心から生まれる質問は相手にも必ず伝わります」。私の長い営業経験からも、相手への好奇心が鍵だと考えている。
内面+外見磨き
著者は、自分の内面と外見を磨こうと呼びかけている。
「私は、『すみません』という言葉が口から出てきそうな時には、一瞬だけ間をおくようにしています。そして、感謝を述べるのであれば、『ありがとうございます』を選ぶようにします。逆に、謝罪を述べる時は、『申し訳ありません』と丁寧に伝えるようにしています」。一見、これは些細なことのようだが、極めて重要である。私も「ありがとうございます」と「申し訳ございません」しか使わないようにしている。
新聞は必ず紙で読み、各ニューズの取り上げ方に気を配る必要性を強調している。「そのニュースがどの程度重要なものなのか、新聞社なりに重要度を判断しています。最も重要度の高いニュースは一面に取り上げられるし、優先度の低いニュースは小さく記載される。・・・もうひとつ紙面で読む理由があります。それは自分の興味の湧かない、あるいは専門外のニュースも視覚的に捉えられることにあります。新聞のオンライン版は効率的に自分の探す情報にアクセスできますが、ニュースを網羅的かつ体系的に把握するには相応しいメディアとは言えません。常に、自分の専門分野にプラスアルファの情報を収集していくことで、自然と自分の領域が広がっていきます」。全く、同感である。新聞を取らず新聞代を節約した気分になっている人間は、武器を持たずに戦おうとする戦士のようなものだ。
「マッキンゼーのコンサルタントが呪文のように唱える2つの言葉があります。それは、”So what?(だから、何?)”Why so?(それは、なぜ?)”です。前者は、何かの結論に達した時に『次に、何が言えるのか?』という意味合いを出していきます。・・・何かの課題に直面した時は、”Why so?”が役立ちます。『なぜ、そうなったのか?』と問題を表象的な部分から、掘り下げていきます」。
紙とペンが発揮する威力が語られている。「新人の頃から紙に書いて資料を作る。紙にまとめて発言する。紙に書き出して整理をする。このようなプロセスを積み上げてはじめて、ロジカルシンキング力が高まっていくのです。紙に書き出すことにより余分な時間がかかるように思います。しかし、結果的に物事が整理できます。新しいアイデアが生まれることもあります。生産性も高まります」。紙とペンで思考を整理するポイントが3つ挙げられている。①先ずは頭に浮かぶことを書き出す、②その際は、論理構成・因果関係・優先順位・言葉の表現を気にしない、③何度も書き直しながら整理していく。
時間との付き合い方
著者が時間に支配されずに働くことの重要性に気づいたエピソードが興味深い。ハーヴァード・ビジネス・スクールの超人気授業・MIPの講師陣は、ここの卒業生を中心に、世界の第一線で活躍する起業家、経営者、投資家、政治家、NGO活動家が毎週入れ替わり立ち替わりで務めるのだが、「ところが驚くことに、錚々たる講師陣が口をそろえて語ることは、ワークライフバランスの大事さです。ビジネスの世界で大成功したとみなされる彼らの中には、プライベートライフで後悔を経験した人も少なくありません。結果、彼らはキャリアばかりを追う若者達に、(ワークライフバランスを考慮に入れた)しっかりとした人生プランのもとでキャリアを積み上げていくことを勧めるのです」。
成果を出す
著者は、引き受けた仕事は5分間限定ですぐやることを勧めている。上司から指示された「仕事を引き受け、自分の席に戻ったら、とにかくすぐに取りかかることです。後回しにしても、それだけ効率は落ちます。机の上に広げてある仕掛かり中の仕事があるのであれば、一瞬その仕事を置いておきましょう。そして、たった今引き受けた仕事に5分だけ集中することです。その5分間でやるべきことは、上司からの指示を再整理することです。そして作業計画を作り、時間を確保すること。次に、早めに取りかかるべきことに着手します」。ここまでやっておけば、あとは作業計画に従って進めていくだけだから、仕掛かり中の別の仕事に戻っても大丈夫だ、5分間だけ、すぐに取りかかる癖をつけようというのだ。そして、上司の期待値を超えるスピードで仕上げるのだ。これぞ、まさに上司が部下を評価する際の最大のポイントなのである。
「メールの返信スピード=あなたの評価」という指摘は的を射ている。「ゴールドマンで、このようなレスポンスの速さは日常茶飯事です。多忙を極め、複数の案件が錯綜し、海外出張や重要会議でスケジュールがぎっしり詰まったトップバンカーであるほどレスポンスの速さは際立っています」。
利益を生む資料と会議で貢献せよ、会議で発言しないのは「欠席」と同じだ、世界に打って出るキャリアを高めよ――と、著者の檄は続くが、基本の大切さを再認識するのに恰好の書と言えよう。