ドクターのパートナーを目指す抗がん剤担当MRの必読書・・・【MRのための読書論(101)】
抗がん剤担当MR
抗がん剤を担当するMRがドクターのパートナーを目指すことは、そうたやすいことではない。困難な道を行こうとするとき、相手を知ることが突破口になることがある。この意味で、『がん診療レジデントマニュアル(第6版)』(国立がん研究センター内科レジデント編、医学書院)を薦めたい。
3つの特長
本書はドクターの白衣のポケットに収まるコンパクトなサイズであるが、3つの点で素晴らしい。第1に、国立がん研究センター内科の現役のレジデントたちが執筆したものを各分野の専門医が責任を持って編集しているため、内容のレヴェルが高く維持されていること。第2に、2012年10月までの最新情報・知識が盛り込まれていること。なお、治療法の信頼度が、最新情報に基づき、★の数で示されている。★★★はRCT(ランダム化比較試験)の結果に基づいて、世界的にも標準治療としてコンセンサスが得られている、★★はRCTの結果には基づいていないが、ほぼ一般治療として推奨されるコンセンサスが得られている、★は一般的には推奨できるコンセンサスは得られていない(「国立がん研究センターではこう治療している」というものを含む)――という基準が適用されている。第3に、コンパクトでありながら、肺がん・胸膜中皮腫、乳がん、頭頸部がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肝・胆・膵がん、婦人科がん、泌尿器腫瘍、胚細胞腫瘍、造血器腫瘍、骨・軟部肉腫とその他の非上皮性腫瘍、皮膚がん、原発不明がん、脳腫瘍、がん性胸膜炎・がん性腹膜炎・がん性髄膜炎・がん性心膜炎とほぼ全てのがんが網羅され、それぞれについて疫学、診断、治療、予後が分かり易く解説されていること。
さらに、「がん診療とインフォームド・コンセント」「がん薬物慮法の基本概念」「臨床試験」「造血幹細胞移植」「感染症対策」「がん疼痛の治療と緩和ケア」「骨髄抑制」「消化器症状に対するアプローチ」「抗悪性腫瘍薬の調整・投与方法と漏出性皮膚障害」「がん治療における救急処置」「腫瘍随伴症候群」も記載されているというように、至れり尽くせりである。その上、必要に応じて、「新しい用語の解説やトピック――ADCs、最良腫瘍縮小割合、mTOR阻害剤、CLLに対する新規治療薬:ibrutinib、QALY、抗悪性腫瘍薬の適応外使用など――を紹介する「Memo」が挟まれ、巻末付録として、「抗悪性腫瘍薬の種類」「体表面積算定表」「抗悪性腫瘍薬の略名」が掲載されている。
がん薬物療法
例えば、「がん薬物療法」は、このように記述されている。「がん薬物療法とは殺細胞性薬剤、分子標的薬、ホルモン薬などを用いた治療の総称である。近年の分子生物学の進捗により、がん細胞の浸潤・増殖・転移などに関わる分子レベルのメカニズム解明が進み、多くの分子標的薬が開発され、標準的治療に不可欠な存在となっている」。分子標的薬については、低分子化合物、大分子化合物、ヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)阻害薬とDNAメチル化阻害薬、プロテアソーム阻害薬が挙げられ、分子標的薬とバイオマーカーの関係が説明されている。そして、添えられている「主な抗悪性腫瘍薬の作用部位」の図が理解を助けてくれる。
がん薬物療法の適応については、「がん薬物療法適応の原則」「がん薬物療法の目的」「がん薬物療法の役割」が解説されている。
がん薬物療法の注意点については、「臓器障害時のがん薬物療法――腎機能障害時、肝機能障害時、心機能障害時、肥満患者」「HBV合併における化学療法」「高齢者に対するがん薬物療法」「妊娠時のがん薬物療法」「治療関連2次がん」に分けて、要領よく整理されている。
近年の薬物療法
近年のがん薬物療法は、切れ味は鋭いが毒性、副作用に特別な注意が必要な薬剤が主体となっており、薬剤の作用機序、薬物動態、毒性や副作用の管理、効果判定などに十分な配慮が必要となっている。
このような背景のもと、極めて実践的な、「レジデントによるレジデントのためのマニュアル」であり、「世界標準治療がわかるマニュアル」である本書に挑戦する価値は大いにあると思う。
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