コロナ禍がMRの存在感を薄めたというのは、本当か・・・【薬剤師のための読書論(40)】
現在は引退しているが、長年、医薬品業界で仕事をしてきた関係上、看過できず、「特集 製薬大リストラ――コロナ禍で加速するMR淘汰」が掲載されている「週刊東洋経済2020年12月19日号」(東洋経済新報社)を手にした。
本特集のポイントは、次のように整理することができる。
●製薬会社のMR(医薬情報担当者)に逆風が吹いている。大型新薬の不在、薬価の引き下げで、製薬会社の経営環境が厳しいところに、新型コロナで対面での営業活動が制限され、改めて「MR過剰論」が噴出している。
●薬価の引き下げや後発品の台頭、大型新薬の開発難などがあっても、製薬会社は研究開発費を確保することが生き残るための必須条件。となると、効率化の白羽の矢が立つのは営業体制だ。構造変化のあおりを食うのはMRなのである。そこに起きた今回のコロナ禍。各社のMRが医療機関に張り付き、医師の勤務の空き時間に殺到する営業手法は、根本的に変革を迫られることになった。
●日本の医薬品市場はおよそ10兆円。医療系サイト運営会社・エムスリーによれば製薬会社は営業のために約1.7兆円のコストをかけており、そのほとんどはMR関連の費用だ。会社にとって研究開発費の確保は生き残るために必須なだけに、コスト削減の余地としてMRの数の削減が検討対象になる。
●(コロナ禍によりMRの活動が激減したのに、医薬品の)売り上げが変わらなかった要因の1つは、医師側がMRの訪問がなくなった分をネットからの情報取得で補ったことだ。「医療界のヤフー」とも呼ばれる、医師向けの情報サイト最大手「m3.com」のアクセス数は、コロナ禍以降跳ね上がった。昨年から販売情報提供ガイドラインが施行されていたことによって、MRが提供する情報が医療サイトより格段に優れているということはなくなっていた。これまで、ネットでの情報提供は製品の認知度を上げる広告の役割を担うだけで、最終的に処方を決めてもらうのは対面のMRにしかできない、というのが業界内の常識だった。だが、実態はそうではなくなっている。医師が新規処方や処方回数を増やしたきっかけは、19年は59%がMRの直接面談だったのに対し、コロナ禍以降は31%と半減。一方でWebメディアの比率は倍増している。この1年でMRの存在感は薄くなり、最終的な医師の意思決定にまでオンラインが浸透しているのだ。
全体的に悲観的な論調で記事が書かれているが、近澤洋平の発言と瀬川融のアドヴァイスに救いを読み取ることができる。
近澤曰く、「だが、MRにとってプラスの変化も起きている。従来にはなかったような技術が生まれ、ここ数年で画期的な作用メカニズムを持つ医薬品が数多く登場してきた。こういった薬は副作用が大きいことが多い。今まで以上にMRは求められるはずだ。似たような薬がたくさんあった一昔前とは違い、医師も薬をどう治療に役立てればいいのか、情報を求めている」。
瀬川のアドヴァイス。「単なるハウツーを学ぶのではなく、自ら考える力を養い、マネジメント思考を育むことがスキルアップの王道だが、これは中長期的な目標。誰でも今すぐにできること、今すぐやれば差をつけられる行動を3つ、紹介してみよう。1つ目は文章力の向上だ。・・・短く簡潔でわかりやすい文章はライバルのMRと差別化できるポイントだ。正しい敬語を用い、相手の心を動かす言葉を操る能力も重要になっている。次に、メールを書くときには、何の案件かを具体的に記述したり、文章をだらだらと書くのではなく箇条書きにしたりするなど、相手に伝わりやすい工夫が必要だ。3つ目としてウェブ会議システムなどの新しいツールに精通していることがポイントだ。医師のオンライン集会を開催し、そのビデオを編集してオンデマンドで共有するなど、デジタル機器やアプリを自由自在に扱えることは大きなアドバンテージになる」。因みに、私は、昔から、仕事関係のメールは箇条書きにしている。
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