榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

MR(医薬情報担当者)は、生き残っていくのが難しい「営業マン」だと主張する本・・・【薬剤師のための読書論(38)】

【amazon 『営業はいらない』 カスタマーレビュー 2020年7月30日】 薬剤師のための読書論(38)

営業はいらない』(三戸政和著、SB新書)を読んで驚いた。何と、生き残っていくのが難しい「営業マン」の代表例として、「①AmazonによってBtoCにもたらされた大変革は、BtoBの現場でも起きはじめている。②医療業界では、営業の代名詞と言えるMR(医薬情報担当者)を代替するサービスがすでに浸透している。③フィンテックが銀行業務を脅かしているように、あらゆる営業の分野で、セールステック(営業支援ツール)の存在感がますます大きくなっている」と特筆大書されているではないか。

続けて、「これらのことから浮かび上がるのが、もはや『営業はいらない』という現実だ。10年後にはこの社会から営業という概念がなくなっているという確信がある。変化はすでに忍び寄っている。気づいたときには世界はもう変わっていた、ということにならないよう、営業マンたちよ、刮目せよ――、という話なのだが、私は決して営業マンたちに退場宣言を出そうとしているわけではない。この本を読み終わるときには、営業マンたちの目指すべき道が見えるようなものを書こうと思っている」と述べている。

著者は。「営業はテクノロジーに置き換えられる」と確信しており、「営業の代表格『MR』もテクノロジーに置き換わる」というのだ。「テクノロジーが生身の営業マンを代替するという事態は、医療業界においても進んでいる。今、日本では製薬会社の営業マン、いわゆるMRが、どんどん減っているのだ。MRと言えば、営業マンの代表格とも言える存在である。・・・医薬品の販売は極めて専門性が高く、複雑で広範な知識が必要となる上、使用時のリスクなども存在する。そのため傍から見れば、医薬品の営業活動については、一見テクノロジーが導入されにくいように思われる。また、『医師の側としても、重要な医薬品を購入するのだから、やはり人を介してじっくり説明を受けたいのではないか』と思ってしまう。しかし現実はそうではない。なんとインターネットを通しての購買が急激に進んでいるのだ。MR認定センターのまとめによると、MRの数は2013年度の6万5752人をピークに、6年連続で減少し、2018年度末には5万9900人となった。特に2018年度の減少は過去最高で、1年で全体の約4.1%にあたる2533人が減少した」。

「MRの数をここまで顕著に減らした裏には、実は『MR君』というWebサービスの存在がある。『MR君』は、日本最大級の医療情報専門サイト『m3.com』等を運営するエムスリーによって提供されているもので、従来はMRから医薬品を購入していた医師の動きを、Web上に代替したサービスである。製薬会社ではこれまで、自社の医薬品についての情報をMRを通じて医師に届け、MRは担当する医師の専門性や性格、その病院の個別条件などを理解しながら、最適な医薬品情報を医師に提供してきた。その際、一部では過剰とも言える接待攻勢をかけ薬の受注を行っていた。しかし、医薬品はいわずもがな公的資金が充当されていることから、そのコストを押し上げるこのような過剰な営業活動は問題視されるようになり、業界ではルールを作っての自主規制が進んだ。こうしてMRの活動範囲は狭められていく。そんな背景もあり広がったのが、MR君のWebサービスである。現在、エムスリーが展開するサイト『m3.com』を利用する医師は28万人で、国内の医師の約9割にのぼる。このサイトを通じてMR君を利用する医師も増えているため、今や製薬会社の営業活動にMR君は欠かせない存在となっている」。

「MR君を使うことは、製薬会社にとって大きな経費削減にもつながっている。エムスリーが公表しているデータによると、MR君を使って医師に情報を認識してもらうためのコストは、人間の60分の1で済むという。人間の場合、どうしても情報のばらつきが出てしまうが、MR君は本社管理による情報提供なので、精度の高い情報をくまなく伝えることもできる。さらに重要なポイントは、MR君が単に医薬品情報を載せているだけのサービスではないという点だ。MR君は『MRの営業活動をそのままインターネットで実現すること』を目的に作られている。つまりその名前の通り、MR君は人間のMRを代替するサービスなのだ。MR君には病院や医師のデータベースが備わっており、データベースにはそれぞれの医師の専門性や特徴、薬の購買状況、情報の閲覧状況といったデータが随時蓄積されていく。このデータに沿ってMR君の提供するコンテンツや提供の仕方は変化する。つまり人間のMRが相手の医師に合わせて情報提供や新薬の提案をするように、MR君も医師一人ひとりにカスタマイズされた形でその内容を伝えることができるのだ。さらにMR君には、製薬会社から提供された医薬品情報の動画や静止画のコンテンツが豊富に掲載されている。今、MR君はアプリでも提供されているのだが、Yahoo!のニュースアプリのようなデザインになっており、情報がとても見やすい。MR君の登場によって、製薬会社の営業戦略は大きく変わった。そして、MRの仕事はテクノロジーによって侵食され、MRの数が減り続けているというわけだ」。

「優秀な営業マンが持っている幅広い商品知識は、膨大な情報を即座にダウンロード(閲覧)できるインターネットの情報提供に置き換わり、顧客のニーズにマッチした商品を提供するスキルは、AIを中心としたレコメンド機能が担っていく。テクノロジーが営業マンの能力を超えるのはもはや時間の問題である」。

「MR君」を展開する企業から広告代を得ているのではないかと思われるほどの記述だが、MRの現状の一面を伝えているのは確かだ。ただし、▶MRによる「医薬品を販売」、▶MRによる「薬の受注」、▶「MRから医薬品を購入していた医師」、▶医療機関の「インターネットを通しての購買」――といった著者の基本的かつ初歩的な思い違いが散見されるのも確かである。

それでは、著者は、営業マンは今後、どう生きればいいと考えているのだろうか。①セールステックを使いこなし自らのセールスの成果を底上げする。②セールステックを使いこなすセールスチームの指揮官になる。③営業職から離れ自ら戦略を立てられる新たな地位に就く――の3つが挙げられているが、著者のお薦めは③だと明かされている。つまり、自立して「経営者」になれというのである。