原発処分の先進国・ドイツに地獄を見た・・・【山椒読書論(457)】
『原発処分 先進国ドイツの現実――地底1000メートルの核ゴミ地獄』(広瀬隆著、五月書房)を読むと、慄然とせざるを得ない。
「高レベル廃棄物とは、セシウムやストロンチウムをガラス固化体にしたものである。日本では、これを、ボンベ程度の大きさの鋼鉄容器に収納したキャニスターという形で、300メートルより深い地層に処分する計画になっている。しかしその容器は、かたわらにいるだけで、放射能の殺人光線を浴びて『即死する』ほどの危険物である。・・・この放射性廃棄物は永遠に大量の熱を出すので、その熱を逃がさなければならない。・・・この熱が、地底で大量に放出されるため、地中に含まれる水分が100°Cを超えれば蒸発して、地底を大変動させる危険性が高い。したがって、日本で地層処分をすれば、100パーセント、間違いなく、亀裂と断層を伝って放射性廃棄物が漏出してくる。それを運び出すのは、主に地下水である。世界でも有数の水の豊かな日本では、地下水が至るところ、何層にもなって縦横に流れており、それが、川床や湖底とつながった伏流水となって、見えない地底で生きている。・・・地層処分場では、この水がやがて放射能の濁流と変って、飲料水、生活用水と農業用水に向かって、セシウムやストロンチウムを浸出させてゆく。・・・毎日食べる野菜や、果樹などの植物も、酪農地帯の牧草も。・・・将来の話ではなく、これが、すでに日本で起こっているのだ! どこで? 福島第一原発の事故現場で、である。2013年7月から現在までの報道では、地上に近い表面での、目に見える汚染水の漏洩しか報じられていないが、あれは、大汚染の一部の話なのである。最も深刻な事態は、音もなく、福島県の見えない地下で静かに広がっている出来事なのである。・・・この汚染した地下水は、太平洋の沖合の海水とつながっている」。著者は、放射性廃棄物の地層処分は日本列島絶滅への道だと警告を発しているのだ。
著者は、原発処分の先進国・ドイツの現場を自分の目で見て、日本の参考にしようと、3100kmに及ぶ取材旅行を敢行する。グライフヴァルト原発廃炉、オブリッヒハイム廃炉、廃炉間近のグラーフェンラインフェルト原発、ゴアレーベン放射性廃棄物最終処分場、コンラート最終処分場、アッセ処分場などの現場で、著者が目にしたのは、何とも厳しい現実であった。「廃棄物処分、この点において、ドイツは決して夢の国ではなかったのだ。私たちが地底1000メートルの地獄におりたって見た時、そこに展開されていたのは、人類滅亡の未来を暗示するかのような、おそろしい事態だったのである」。
「高レベル放射性廃棄物の処分(安全な管理)は人間には不可能」というのが、本書の結論である。そして、これは10万年先の問題ではなく、今年~来年に決断を迫られている「現在の問題」だというのである。「今もって、いつ襲ってくるか分らない大地震や大津波の脅威にさらされているのが、(日本)全土の原発だ。10万年先の問題ではない、という意味は、ここにある。全土の停止中の原発でさえ一触即発の状態にあるということである。原発立地自治体は、もはや一刻の猶予も許されない状況に置かれている。高レベル放射性廃棄物の最終処分場を決定せずに、使用済み核燃料の危険性を高める『原発再稼働』は、原発をかかえる現地住民にとって、絶対に許されない事態を迎えているのだ。日本政府は、大量発生する『行方の決まらない使用済み核燃料および高レベル放射性廃棄物』の最終処分場の地名を答えずに、どのような理由から原発再稼働を認めるのか、その具体的な理由をまったく答えていない。国民と報道機関は、自分の命と生活を守るために、日本政府に対して厳しくこの問題を追及すべきなのだ。のんびりしている時ではない」。
「再稼働をたとえて言えば、着陸する飛行場がないまま、飛行場を離陸する飛行機のように無謀なものである。着陸できない飛行機が、飛ぶか?」という著者の問いかけが、重く響く。我々は、今まさに、原子力を放棄する決断を迫られているのである。