榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

私の理想像・細川護熙の生き方に学ぶ・・・【山椒読書論(87)】

【amazon 『跡無き工夫』 カスタマーレビュー 2012年10月21日】 山椒読書論(87)

私にとっての理想像、それは細川護熙である。細川の出自が高く、代々の世襲財産があり、知事や首相を務めたから、理想像なのではない。彼の政界引退後の生き方が素晴らしいのである。

細川の生き方には、彼自身のぶれのない考え方がバックボーンとして貫かれている。『跡無き工夫――削ぎ落とした生き方』(細川護熙著、角川oneテーマ21)で「絵を描いたり、やきものをやったり、畑いじりをしたり・・・私の現在の生活は、好きなことばかりをしている気楽な隠居生活のように見えるかもしれません。しかし、何も考えずにのんびり余生を謳歌しているというわけではありません。私は、政治家時代が『主』の人生で、リタイアしてからを『余り』の人生と考えたことはないのです。『今日という日をどう充実させて緊密に生きるか』ということを、いまも毎日真剣に考えつづけています。いえ、残り少なくなった時間だからこそ、その時間をできるだけ自分にとって大事なことに費やしたいと考え、そのためには何をなすべきで、何をなさざるべきかに思いをめぐらしています」と語っている。

そして、本阿弥光悦の茶碗が好きなのは、光悦の生き方に共鳴するからであり、池大雅の絵に魅せられるのは、その価値観の軸を金銭の多寡や名利に置かずに、質実簡素に生きようとする精神の故であると述べている。また、繰り返し繙きたい本は、書き手の生き方に強く心寄せることができるものばかりだというのだ。

著者が、自戒を込めて墨書し、寝起きする部屋の枕元の壁に貼っている「日々の心得」というのが、興味深い。「即起。不霑恋。作務。夜、不出門。習字。読書。静坐(内訟、養気)。勤倹(飲食起居すべて寒素に)。居敬(自己を空しくして、他を敬する)。慎独。謹言。刻々留心(第一工夫)」。

細川の真似をしようにも、私などにはとても無理だが、彼に近づきたいと努めることは可能だ。また、彼の素晴らしい生き方を参考にしながら、自分独自の生き方を模索することにも意味があると考えている。