小早川秀秋は裏切り者でなく、黒田官兵衛は軍師ではなかった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(112)】
【amazon 『戦国武将の明暗』 カスタマーレビュー 2015年7月7日】
情熱的読書人間のないしょ話(112)
ムーミン・シリーズに登場するキャラクターの中で、私が一番好きなのは、三角の帽子を被った、孤独と自由を愛するスナフキンです。作者のトーベ・ヤンソンが描いたスナフキンの絵と、ムーミン展で入手したスナフキンの人形を気に入っています。
閑話休題、作家が思いつきや想像力だけで捏ね上げた珍説・奇説の類いにはとんと興味を惹かれませんが、『戦国武将の明暗』(本郷和人著、新潮新書)は面白く読めました。定説に対する素朴な疑問と、丁寧な史料研究に基づく学者としての独自の仮説がほどよく融合して、説得力を醸しているからです。
とりわけ、3つの指摘には頷いてしまいました。
第1は、天下分け目の関ヶ原の戦いで裏切り者とされた小早川秀秋は裏切り者ではなく、戦いの前から故・豊臣秀吉の仕打ちに不満を抱き、徳川家康に好意を寄せていたという仮説です。
第2は、秀吉の有能な軍師として、秀吉に天下を取らせたとされる黒田如水(官兵衛)は軍師ではなかったという仮説です。そもそも、戦国時代に「軍師」なんていなかったというのです。本論から離れますが、戦国期の武将には珍しく、黒田如水と直江兼続は妻だけを愛し、一生を通じて側室を置かなかったと書かれています。
第3は、戦国期の武将たちは、日本は一つではなく、都と鄙に分けて考えていたという仮説です。「●日本A=都:畿内・中国・四国・中部の各地方、●日本B=鄙:関東・東北・九州の各地方」というものです。「こうしてみると、『天下布武』の理念を掲げ、『日本は一つであるべし』と発想した織田信長がどれほどユニークだったか、よく分かります」。最近、信長は天下統一を目指したのではなく、畿内を中心とする地域の統一を考えていたという学説が発表されましたが、私は本郷の「信長ユニーク説」に賛成です。