榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

会長・島耕作の農業論は、耳を傾ける価値がある・・・【情熱的読書人間のないしょ話(193)】

【amazon 『島耕作の農業論』 カスタマーレビュー 2015年10月9日】 情熱的読書人間のないしょ話(193)

散策中、水溜まりの上を連結したアキアカネのペアがたくさん飛んでいる光景に出くわしました。雄が尾部で雌の頭を掴んだ形で交尾し、その後、一列に連結して飛びながら産卵場所を探しているのです。連結したまま雌が尾部を水面に打ち付けながら産卵する様子もカメラに収めることができました。違う場所では、ロープに止まったアキアカネが並んで日向ぼっこをしていました。

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閑話休題、『島耕作の農業論』(弘兼憲史著、光文社新書)では、今後の日本の農業はどうあるべきか、著者の私論が展開されています。「農業こそが日本の次の産業になる」というのです。

著者の漫画・「島耕作」シリーズは、「課長」から始まり、「部長」「取締役」「常務」「専務」「社長」「会長」と出世コースを歩んできましたが、『会長 島耕作』の主要テーマは農業です。

『会長 島耕作』のオランダ・ウエストランド視察時のシーンでは、訪問先の幹部がこのように語っています。「これからの農業は栽培することだけを考えていればいい時代ではなくなっています。異業種への働きかけも重要で、新しいマーケットを開拓し、農産物や農業技術を海外に進出させていかなければなりません。実はオランダも日本と同じように若者の農業離れが問題になっております。農作業は重労働というイメージがあるから避けられるのですが、今の農業はIT技術が最も必要なんだということを知ってもらわなければなりません。農業は面白いです。農業は儲かります。そのことをもっと若い人達にプレゼンしていくことも国の大きな仕事なんです」。日本の農業は合理的農業国・オランダから学べというのが、著者の主張です。

オランダのワーヘニンゲン大学の教授が島にレクチャーするシーンは、このようです。「近年オランダの園芸農家は先端技術をとり入れて、農民というより企業の経営者というイメージです。この分野はアグリバイオインダストリーと言われるように、いわば植物工場です。野菜も花卉もコンピューター制御のもとに生産されて、彼等は1日の仕事のうちの50%はパソコンの前に座っているビジネスマンです。・・・こういった総合的な農業の経営方法もこの大学では研究しています」。オランダは、ワーヘニンゲン大学、政府、EUといった産学官の緊密な連携の下で農業に取り組んでいるのです。

「長らく日本では、農業は聖域とされてきた。まず新規参入が難しい分野だった。農業は他の産業とは違い、農家や農協、農業研究者のみしか関われない世界である――少なくとも、そう思われていた。また農業は、文字通り国のライフラインである。食料がなくなれば、国民は飢えるのみだ。ライフラインを守るために保護しなければならないと、政治家も我々も考えていた。しかし――。聖域にすることによって、我々は思考停止していたのではないだろうか。企業は本来、マネジメント力、マーケティング力、そして技術力を持っている。その分野が不得意なのが、個人経営の農家だろう。これを利用すれば、日本を救う産業となり得る。そう、日本を農業で立国する」。

会長・島の農業論、いや弘兼の農業論には耳を傾ける価値があると考えます。