ソニーCSL研究所で研究者たちが妄想している、とんでもないこと・・・【情熱的読書人間のないしょ話(2181)】
ツバメ(写真1~3)に出くわしました。サクラの園芸品種・ウコン(写真4~9)、ホンシャクナゲ(写真10、11)、セイヨウシャクナゲ(写真12、13)、モッコウバラ(写真14、15)が咲いています。我が家のクルメツツジ(キリシマツツジ。写真16)が見頃を迎えています。風呂から上がった女房が大きな声でカメラ、カメラ!と私を呼ぶので、慌てて駆けつけました。浴室の曇りガラスにへばりついているニホンヤモリ(写真17)は、今シーズン初登場です。
閑話休題、『好奇心が未来をつくる――ソニーCSL研究員が妄想する人類のこれから』(ソニーコンピュータサイエンス研究所編、祥伝社)には、さまざまな領域の研究者20人が登場し、それぞれの思いの丈を吐き出しています。
個人的に強く印象に残ったのは、「大和田茂――機械と人間の関係を考える」、「舩橋真俊――テクノロジーは人の苦しみを取り除く手段。幸福論を持ち込むべきではない」、「フランク・ニールセン――情熱だけで研究をする。幾何学とは、そうした研究者しか続けられない分野である」、「佐々木貴宏――仮想世界のシミュレーションで、『現実社会』をより良くする」の4人です。
●大和田茂――
「結局のところ、コンピュータはまだ奴隷的に働く道具の域を出ていないのではないでしょうか。人間とは違うアプローチで、これまでは『知的』で、人間にしかできないと考えられてきた作業を置き換えているという段階です。もちろんその能力が人間を超える場合も出てきていますので、すでに大きな産業的価値を持ち始めています。個人的にはコンピュータはこれからもその奴隷的立ち位置のままで良いのではないかと思っています。・・・実際に知的な情報処理を達成している仕組みを勉強すると、今の構成要素は比較的単純で、その単純な要素が重層的につながっているところが一番の特徴のようです。結局のところこの重層的ネットワーク構造が持つ、人間から与えられたデータに適合する能力が、いくつかの技術革新によって非常に高くなったため、問題によっては人間の技術や能力を超えるパフォーマンスを出しているのです。もちろんコンピュータにアンドロイド的な意味での知性を持たせる試みにも多くの研究者が取り組んでいますが・・・まだ表面的な応対に終始し、なかなか期待するインタラクションの品質にはなっていないと思います。アマゾンのアレクサやグーグルホームなどのスマートスピーカー(AIスピーカー)も、最終的には人間がルールを書き、すべての会話をアレンジすることになります。・・・家とインタラクションできるボットやエージェントをつくりたいという相談を受けることもありますが、AIが意思を持ったように感じさせるのはまだ難しく、また危険性もあるので、現状では力技で会話パターンをインプットするのが落としどころだと答えるようにしています」。
●舩橋真俊――
「何かをやってもその人が幸せになるかどうかはその人次第です。与えられた状況の如何にかかわらず、その人が幸せと感じるかどうかにかかっています。本当の意味での幸せはその人にしかわかりませんし、そもそも幸せは測りようがない。テクノロジーで少しぐらい便利なものをつくったからといって、幸せの本質が変わるとは思えません。たった一つ、幸福についてできるアプローチがあるとすれば、それは苦しみを減らすことだと思いです。・・・少なくとも、衣食住がある程度までは満ち足りていて、痛みや苦しみがないまともな生活が送れる状態の社会秩序があって、それとはまったく独立したところで、人間は勝手に幸せになっていくものだと思います。・・・少なくとも、自然の中に与えられた生命本来の摂理から逸脱してしまう苦しみを減らしていくことがテクノロジー、サイエンスが着実に貢献できる領域です。テクノロジーに幸福論を持ち込むべきではなく、そんな言葉があるかどうかわかりませんが『苦しみ論』は持ち込む。それが私のサイエンスに向き合うスタンスです」。
●フランク・ニールセン――
「今の世界が嫌なのは、私たちが機械に負けているのが顕著だからです。機械から、さまざまな病気が生まれています。ビデオゲームに依存する人、メールチェックに惑わされる人、ほかにも挙げればキリがありません。私も、メールは一日返事をしないとストレスになってしまいます。・・・そこで考えたのが、例えば私が5世代前の人と話ができて。彼または彼女が考えたアイデアを改善し、提示できるようなアイデアの系譜です。・・・これがGeneaBookというアイデアです。研究者は、自分の人生を費やし、自分が設定したテーマの研究だけでなく、時代を超えた研究ができないかと考えています。それは、メッセージを将来に送れる『アイデアタイムカプセル』です。研究は、一つのジャンルの中でまとめないといけない。この常識を取り払い、世代という常識も取り払ってみれば、アイデアはもっと広がると思います。・・・残していけるアイデアの系譜ができれば、もう少し人類の役に立てるのではないでしょうか。インターネットのインフラがあるように、フェイスブックのようなGeneaBookがあれば、さらにサイエンスは発展する」。
●佐々木貴宏――
「生物の変化を説明する進化論には、ダーウィンの進化論とラマルクの進化論があります。・・・ダーウィン説とラマルク説に基づいた世代交代のモデルを仮想環境でシミュレーションし、両者を比較しました。シンプルに考えれば、一度学習して獲得したものをそのまま次世代に伝えることができるラマルクの進化モデルのほうが、効率が良さそうに見えます。しかし、いろいろ条件を変えてシミュレーションしてみると、スタティックな環境の場合はたしかにラマルク型のプロセスのほうが圧倒的に有利ですが、ときどき世界がガラッと変わってしまう環境を想定すると、ラマルク型ではそれまで学習したことが徒になったりする。結果的に、世代ごとにリセットされるダーウィン型の遺伝のほうが、ダイナミックに変動する環境のもとでは強いことがシミュレーションで示されました。ここまでの結果は想像の範囲内なのですが、面白かったのは、ダーウィン型のモデルでは学習能力の高い個体が進化によって現われてくるという予想外の現象が見られたことです。・・・つまり、学習能力のより高い個体が自然淘汰の中で生き残りやすく、結果的に学習能力の高さが進化によって獲得されるということです」。
「未来とは、過去の延長ではない。未来はイマジネーションと好奇心でつくられる」という熱い思いが、ひしひしと伝わってくる一冊です。