自分のやりたいことをやる人生を送るためのガイドブック・・・【MRのための読書論(120)】
やりたいことをやる人生
自分のやりたいことをやる人生が、一番素晴らしいと考え、それを日々実行している人物、出口治明を一言で表現すれば、こういうことになるだろう。どうすればそういう人生が送れるのか、その秘訣が余すところなく語られているのが、『人生を面白くする本物の教養』(出口治明著、幻冬舎新書)だ。
教養の要件
著者の主張は実にシンプルかつ明快で、人生を面白くするためのツールは教養だと喝破している。「教養とは、人生におけるワクワクすること、面白いことや、楽しいことを増やすためのツールです」。教養の要件が挙げられている。第1は、頭の中の引き出しの数が多いこと、第2は、広く浅くではなく、広く、ある程度深い知識があること、第3は、他人に左右されず、自分の頭で考えられること――の3つだが、決定的に重要なのは、自分の意見を持っていることだという。「『自分の意見』がないことは、自分の人生の基盤を持っていないこととほぼイコールなのです」。
知的生産の方法
著者の経験から編み出された知的生産の方法というのが、いかにもこの著者らしくユニークである。具体的には、「本・人・旅」だと述懐している。「私はこれまでの人生で、『本・人・旅』から多くのことを学んできました。あえて割合を示せば、本から50%、人から25%、そして旅から25%ぐらいを学んできたといったところでしょうか」。こういう言い方にも、著者の「国語(定性的)ではなく、算数(定量的)で考える」という方針が貫かれている。
本を読む
現役経営者としてはずば抜けた読書家として知られる著者だけに、読書に関する見解は奥が深く、傾聴に値する。例えば、●ゴルフ、テレビを捨てて本を読む時間を確保、●分からない部分を読み返すことで本の内容を血肉化、●速読は百害あって一利なし、●ベストセラー情報で選ばず、新聞書評で選ぶ、●古典は無条件で優れている、●少しでも魅力を感じたら、取り敢えず読んでみる、●仕事上、読まねばならない本はさっさと読む、●書店は楽しい、図書館も活用――などである。速読に関する、「本を読むのにかかる時間は、その人の知識量で決まってくるものであり、単純に目で文字を負う速度とは違うのです」という指摘は、全く同感である。
人に会う
「『政治体制が違っていても、人の暮らしに必要なものは変わらない。温かい家と食事、そして心を許せる友だち』(多田麻美『老北京の胡同』)。その通りだと思います。まさに古今東西、人間社会の真理を突いた言葉です。衣食住に困らない程度に稼げて、何でも腹蔵なく語り合える友人が何人かいれば、おそらくほとんどの人は、人生は素晴らしいと感じるのではないでしょうか。さまざまな出会いや別れを通じて、心を許せる友だちを見つけていくことが、人とつき合う本当の醍醐味だと思います」。
旅に出る
本を読み、人の話を聞くだけでは、分からないことがある。だから、旅に出るのだ。「ただし、旅は行けるところが限られており、しかも、まだタイム・マシンは実現されていないので現在の場所にしか行けません。2千年前の街には行けないのです。旅のリアリティはほかに比するものがありませんが、範囲が狭いという問題があります。それに対して本ならどこへでも行けます。地球だけにとどまらず火星にでも太陽系外へも行くことが可能です。もちろん、昔の街にも簡単に行けます。旅と本は互いに補完関係にあるのです。うまく『本・人・旅』を組み合わせて、人生をよき思い出で満たしてください。人生の楽しみは喜怒哀楽の総量(絶対値)にあるのですから」。
なお、本書の後半は、「教養としての時事問題」の「国内編」と「世界のなかの日本編」、「英語はあなたの人生を変える」、「自分の頭で考える生き方」の章で構成されているが、この部分も、著者独自の意見が率直に述べられていて、読み応えがある。
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