1~3年目の社会人必読の仕事指南書・・・【山椒読書論(468)】
どんな業種の企業であれ、そこでのどんな業務であれ、企業におけるあなたの将来は、最初の1~3年間に、どういう考え方・行動をしたか、どういう上司・先輩・同僚に恵まれたかで決まってしまう。これは、企業人として、数十年に亘り、多くの同僚・後輩・部下に接してきた私の偽ざる実感である。
『後悔しない 社会人1年目の働き方』(森本千賀子著、西東社)の著者が、「『マラソンの先頭集団』に入社3年以内に入っておく」の項で、「ビジネスパーソンにとって(マラソンの)5キロ地点にあたるのは『入社3年目』であると、私は思っています。『この期間内に先頭集団にいなければ、後々影響力を持つ人物になるのは難しい』・・・私は、『3年間は絶対に力を抜くことなくがんばろう』と決意しました。・・・それは、必ずしも人より高い業績を上げて一目置かれることではありません。新人の業績なんて、たまたまの運に左右されることが多いのですから。それよりも、確実に基礎力をつけることを意識しましょう」と勧めていることと軌を一にしている。
社会人1~3年目に、幸運にもこの本を手にできた人と、そうでない人との差は、年数が経過するに従い、どんどん大きくなっていくことだろう。本書で挙げられている58のアドヴァイスのいずれもが著者の実体験に裏付けられており、これらが有効なことは、リクルート入社以来、長期に亘り輝きを放っている著者の伝説的キャリア・コンサルタントとしての目覚ましい仕事ぶりが雄弁に物語っている。
新社会人が「絶対に心得ておきたい6カ条」として、上記の「マラソン・・・」を含め、●笑顔・元気は新人の「役割」、●新人時代はたくさん恥をかいた人の勝ち! ●「置き物」にならない。新人ならではの意見を発信、●「小さな目標→達成!」をくり返して自分を盛り上げる、●1年目は「守・破・離」の「守」――の6項目が挙げられている。著者の言うとおり、これらは基本中の基本である。
「基本のスキル・知識を身につける」の章で強く印象づけられるのは、●最初の3カ月間は「質問魔」になろう、●複数の先輩を観察して「いいとこ取り」をする、●本音を引き出す「質問の仕方」に注目、●「仕分け作業トレーニング」で優先順位がわかる、●「情報収集力」が上がる新聞の利用法、●書物と向き合うことを「日常」にする――である。「仕分け作業トレーニング」とは、①やるべき仕事をすべて書き出す、②「いつやるか」を分類する、③1日のうち「どの時間にやるか」を仕分けする、④終えた仕事を黒の太いペンで消す、⑤やり残した仕事を次のページに記す――というものである。このルールが習慣となれば、作業効率が大幅にアップすること間違いなしだ。
「求められる人材になる」の章では、●「雑用」こそ自分をアピールできるプレゼンツール、●「打てば響く」人間にチャンスが巡ってくる、●飲み会の幹事も立派はマネジメント経験、●理想的な仕事の3要素「WILL」「CAN」「MUST」、●これからのマストスキルは「変化対応力」! ●「××といえば○○(自分)」という「自己ブランド」を作る、●社内の「オピニオンリーダー」を捜して仲良くなる――がポイントとなる。「WILL」とは「自分が実現したいこと(やりたい仕事、就きたいポジション、居心地のいい職場環境、理想のワークスタイル・ライフスタイルなど)」を、「CAN」は「自分にできること(保有する経験・スキル・能力・素養など)」を、「MUST」は「組織の一員として果たすべきこと(会社から求められるノルマ・目標・役割など)」を意味している。この3つのバランスを自分の中で上手にコントロールせよというのだ。
「人間関係を築く」の章は、人間関係の達人である著者の面目躍如である。●次につながるおつき合いは相手への興味からはじまる、●一筆せんを常備。気持ちは「手書き」で伝えて、●年賀状と暑中見舞いで自分の存在をアピール、●同期は一生の財産。1年目のうちにつながっておく、●社内資料で「会いたい人」を探す(社内人脈を作る)、●関係を深めたい人は「ランチ」に誘う、●厳しい人から逃げない。むしろ自分から近づこう――と有効策がぎっしりと詰まっている。
「壁を乗り越える」と「心を強くする」の章は、新人にとって心強いメンターの役割を果たしてくれることだろう。●がんばっても成果が上がらないときにはグッド・プラクティス、小さな「よかった」に注目、●仕事で失敗したら「挽回力」で評価を得るチャンス、●叱られて落ち込んだときには「お叱りは期待の表れ」と考える、●どうしても苦手な上司・先輩がいるときは距離を置く前に相手の本質を探ってみる、●不本意な「異動」を命じられたら異動は「成長のチャンス」。10年後に経験が生きることも、●仕事が楽しくない・苦痛と感じたときには妄想力で発明しよう! 「おもしろくする」自分ルール、●心が弱ってしまったときには「眠る」「食べる」「人に会う」、●どうしてもモチベーションが上がらないときには自分を奮い立たせる「言葉」を持っておく、●どうしてもモチベーションが上がらないときには「生き生きとしていた過去」に戻ってみる、●気持ちもスキルも高めてくれる「メンター」「サポーター」――と、いずれも具体的かつ実践的である。「妄想力でおもしろくする」森本流のルールとは、●「冷たい対応をされたり怒られたのと同じ回数だけいいことがある」という法則を自分で作り、怒られた回数を数えて記録する、●怒られたら、「普段の生活で、他人からこんな風に怒られることってないよね」と笑う。「貴重な経験をしている」と考える、●「素敵な人と出会うためのきっかけ、手段」と考える。「私が電話をかけなきゃ、素敵な出会いを他の人に取られてしまう」と考える、●断られたら、「あーあ、この人、損したな。後悔するだろうな」と考える――というもので、ちょっとだけ意識の持ち方を変えることによって、ゲーム感覚で仕事を楽しめというのだ。この前向きな妄想力が、どんな環境にあっても「心が折れない森本」を育ててきたのだろう。
本書は、間違いなく、社会人1~3年目の人たちの必読書であるが、4年目以降の人たちにも思わぬ気づきとヒントを与えてくれるはずだ。私がその立場だったら、何を措いてもこの本を購入するだろう。