榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

フランドル地方の四季の移ろいを味わい尽くすエッセイ集・・・【情熱的読書人間のないしょ話(301)】

【amazon 『フランドルの四季暦』 カスタマーレビュー 2016年2月18日】 情熱的読書人間のないしょ話(301)

ダイコンたちが背伸びをしている以外、他の作物が見当たらない冬の畑は、土の色が鮮やかに感じられます。ボケが早くも緋紅色の花を咲かせています。ジンチョウゲはたくさんの蕾を付けています。スズメが大き過ぎるパン屑を持て余していました。因みに、本日の歩数は12,841でした。

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閑話休題、『フランドルの四季暦』(マリ・ゲヴェルス著、宮林寛訳、河出書房新社)は、移り変わる四季を愛する人には、堪らない一冊です。

ベルギー・フランドル(フランダース)地方に住むマリ・ゲヴェルスが、巡る季節を見詰め、素朴な村人たちの暮らしぶりを綴ったエッセイ集です。著者の瑞々しい文章と、添えられた大野八生の約70点の植物画が絶妙なハーモニーを醸しています。

「このあたり(フランドル地方)は緯度が高いわりに気候が穏やかです。空気が湿り気を帯びるのも、水面と雲が反射し合うのも、雲と地表のあいだでいつも霧をやりとりしているのも、そして風向きがしじゅう変わるのも、畑や、牧場や、木立の線が眩しくて、おいしそうに見えるのも、たっぷり水を吸った庭の涼しさが、あたり一面に降り注ぐのも、思いつくかぎりの恩恵はそのほとんどがメキシコ湾流に由来します」。

「3月、そして春分」の章には、こういう一節があります。「私はすぐ外に出て、庭の外れを流れる小さな川まで走りました。春はまずこの飾り気のない川に挨拶するにちがいないと思ったからです。早くも気配を察したスズメたちが私を呼んでいます。『来たよ! そこだよ』。じっとりと濡れた道は青みがかって見え、ところどころ靄のかかった下藪には甘い匂いが染みついています。小川の縁では2匹のヒキガエルが交尾の最中、その場でじっとしたまま体を小刻みに震わせています。リュウキンカが咲き出した芝生は星形の花でにぎやかですが、けだるい眠気に襲われて、先の尖った5枚の花びらが早くも閉じかかっているかと思えば、空にきらめく星座ではリュウキンカの姉や妹が今まさに花を開こうとしています。リンデンバウムの若木が新芽を差し出すものですから、私はそれを2つ3つ、こりっと噛んでみました。するとどうでしょう、突然、木々の言葉が聞こえてきたではありませんか。もっぱらの話題は間もなく始まる発葉のことでした。見上げる空では白羊宮に太陽が迎えられた頃です」。

「11月の霧」の章は、こんなふうです。「霧の日は夕暮れ時が最高に美しく見えるものです。そんな刻限に、木立の中を散策しながら、落ち葉が特にたくさん積もった場所を選んで、足を引きずるようにして歩いてみましょう。落ち葉がざわざわと鳴って、その音を聞くうちに、自分はどこにも辿り着きたくないと思っていることに気づくにちがいありません・・・。どこかに辿り着くといっても、辿り着く先は、せっかく今味わっている寛ぎと、安らぎと、息抜きの時が終わるその瞬間以外にありえないのですから、辿り着きたいわけがないのです。枯れ葉を踏んだ自分の足もとから立つ音を魂の糧にすること。それで十分ではありませんか・・・」。私にも同じような経験がありますが、これほど上手に表現できる人は、ゲヴェルスとジョージ・ギッシングくらいでしょう。