環境変化を見抜く一流MRの眼力・・・【MRのための読書論(11)】
勝ち残るための7つの眼
重大なルールの変更がなされた時、それを無視して我武者羅にゴールを目指すだけのサッカー選手に勝利の女神が微笑むことはないだろう。同様に、医療制度改革によって環境が大きく変わろうとしている時、その変化に気がつかないMR、気がついていても新しい環境に対応できないMRが勝ち残ることは難しいだろう。
『MRバブル崩壊時代に勝ち残る”7つの眼”』(川越満著、エルゼビア・ジャパン)は、MRバブル崩壊への9つの足音が聞こえると警告を発している。すなわち、①独立行政法人国立病院機構の「共同購入」と「採用品目削減」②DPC拡大による低薬価シフト③処方箋様式の変更による後発医薬品の使用促進④高齢者の自己負担増⑤パテント切れ症候群とピカ新欠乏症⑥シェア・オブ・ボイスからシェア・オブ・マインドへの転換⑦バーチャルMR、CSO、DTCの普及⑧再編統合による医療機関の減少⑨薬価の年度改定化、である。
それでは、これらの環境変化を踏まえて、勝ち残るMRになるためにはどうすればよいのか。著者は7つの眼を備えるべきと明言している。変化を読む眼、顧客を見る眼、顧客の感情を読む眼、経営を見る眼、地域医療を見る眼、違いを見る眼、患者を見る眼、の7つの眼であるが、観点がユニークで、説得力がある。
「顧客の感情を読む眼」のところで、「カタログ・セールス」は最低レベル、「差別(異)化セールス」は中間レベル、質問力を備えた「コンサルティング・セールス」が最高レベルと位置づけられているが、私の20年に亘るMR経験からも同感である。標的ドクターに「現在、先生が最優先して取り組んでおられることは何ですか?」と質問し、答えを得た後に、「先生は私が担当させていただいている先生方の中で○番目に重要な先生です。今日から、その最優先事項に関して先生のお役に立てるよう頑張ります。本当に私が頑張っているか、お手数ですが監視をお願いします。私が頑張っていると認めていただけましたら、○○の患者に○○を1例だけ処方してください」と依頼する。標的ドクターを監視役に仕立ててしまうことによって、ドクターとMRが目的を共有することができるのである。また、「先生が一番優秀と思われるMRは誰ですか? そのMRのどういうところが凄いのですか?」という質問も威力を発揮する。
差をつけるためのITツール
『MR活動が10倍効率化されるIT活用法』(池上文尋著、医薬経済社)は、IT環境の急激な変化に対応すべく、「MRが個人の持つ能力を瞬時に多数の顧客に伝えることができる時代」のMRのあり方を提言している。
著者は、自身の豊富な経験から、MRのITツールは「SNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)→ブログ→メルマガ(メールマガジン)→WEBサイト(ホームページ)」という順で展開していくことを勧めている。それぞれのツールについて適切なアドヴァイスが盛り沢山なので、IT初心者の心強い味方となるだろう。
私は、ITが進歩すればするほど、直に標的ドクターに会って、ドクターの心に響くディテーリングができるMRの重要性が増してくると確信している。
オシム・サッカーを実践するための対応力
『オシムの言葉』(木村元彦著、集英社インターナショナル)は、イヴィツァ・オシム監督という魅力的な人物の内面と、オシム・サッカーの神髄を知るには最適・最高の本である。
どのページからも教えられること、学ぶことが多いが、MRの視点に立つと、オシムの「ようやく選手たちが、グラウンドの中に入ったら何をすべきかを分かってきたということだろう。彼らは、グラウンドの中で直面したシチュエーションに合わせて振る舞うべきだ。これは言うことは簡単だが、それを実現させるのは難しいことだよ」という言葉が印象的である。オシムが最重要視しているのは、正に環境変化に対する対応力だからである。
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