榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

自分は個人会社の社長だと考えると、MR活動の全てが変わってくる・・・【MRのための読書論(89)】

【Monthlyミクス 2013年5月号】 MRのための読書論(89)

発想の転換

なぜあの先輩MRは仕事が早くて楽しそうなのか?――MRハックス48手』(池上文尋著、医薬経済社)は、読み手の環境・立場に応じてさまざまな読み方が可能な、多面的な本である。

「MR活動を自分の会社の事業と考えてみる」という著者の発想は、非常に魅力的だ。自分の担当先(担当エリア)の年間売上が1億2000万円、給与が800万円だとすると、売上は自分の個人会社の事業規模、給与は純利益、自分はその会社の社長と置き換えることができる。自分の会社だから、どう経営していくかは自分で考えなければならない。経費についても、当然、費用対効果を重視するようになる。

社長ということになれば、自己啓発や人脈構築のための投資も積極的に行うようになるだろう。著者は、会社の経費ではなく、自腹で社外の勉強会やセミナーに定期的に出席することを勧めている。そして、そこで学んだことを自分の事業で即、活用せよというのだ。

この考え方を徹底していくと、これから先、所属する企業がどのような環境変化に見舞われようと、あなたは企業から頼りにされる人材に成長しているだろう。また、起業を目指す場合の訓練も進んでいることだろう。

選択と集中

「1日2人の面会で何が悪い?」という発想は、かなり大胆に見えるが、賛成である。20年に亘る私のMR経験に照らしても、「選択と集中」なくして成功を勝ち得た先輩・同僚・後輩MRに出会ったことがないからだ。

この前提として、「自分がドクターに使える時間を考える」ことが必要となる。例えば、自分の年間売上が1億2000万円、年間勤務稼働日数が200日で1日のディテール時間が6時間だとすると、年間120万円の売上があるドクターに対して使える時間は、1カ月1時間となる。この1時間をいかに有効活用するかが勝敗を決するというのだ。

100人のドクターを担当していようと、ドクターの真のパートナーになるために、思い切って、これはと判断した33人に的を絞るのである。ドクターを選択する際は、「重要なのはお互いに信頼できる関係になれそうなドクターを選ぶということです。目の前の処方量で選ぶと失敗する確率が上がります」という著者の注意事項を、心に留めておこう。その33人に対しては、それぞれのドクターが抱えている問題や課題に焦点を定めた、十分な調査と準備が必要となる。ドクターの頭の中にある問題・課題を解決するサポート役、コンサルタント役に徹すれば、仕事のクウォリティが上がり、ドクターとの面談内容は濃密となり、自ずから面談時間は長くなる。課題解決(ソリューション)に当たっては、amazonで関連書籍を絞り込み、最適と思われるもの2~3冊を読破するのが近道だと、著者が強調している。また、患者向け勉強会や院内スタッフ向けイヴェントなどを企画・提案し、ドクターと共に案を練り上げるという方法もある。これらを通じて、ドクターから信頼され頼りにされるようになるだけでなく、MR自身も能力のレヴェル向上を図ることができる。そして、このことによって得られる最大の報酬は、仕事が面白くなることだろう。

向上心に燃えるMRならば、さらに、ドクターのブランディングをサポートする段階を目指したい。これは著者が最も得意とする領域だが、ドクターの紹介記事を地元の情報誌、クリニック紹介サイト、自社の社内報などで取り上げてもらえるよう根回ししたり、ドクターのサイトやブログの立ち上げやSEO(検索エンジン最適化)、SEM(検索エンジン・マーケティング)を手伝うことを意味している。

上司は取引先の一つ

「思考レイヤー(階層)を上げる」では、もし自分が課長だったら、この問題をどう考えるか、その思考回路を知ることの有益性に言及している。また、困っている同僚や後輩にそっと手を差し伸べることが、組織における管理職への道に繋がると述べている。

「逆境を面白がる思考」とは、「休み=楽しい、善」「仕事=つらい、悪」から「仕事=遊び」「とんでもない要求=話のネタ」と発想を転換することによって、仕事が楽しくなるというものだ。無茶な要求を突きつけてくる上司、ダメ上司は、あなたが成長するチャンスだというのだ。「上司は取引先の社長の一人と思えばよいのです」。