榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

今、ITの世界に何が起こっているのか・・・【MRのための読書論(57)】

【Monthlyミクス 2010年9月号】 MRのための読者論(57)

ITの新潮流

ITの世界は、私にとって不得意な分野である。ITの世界に大きなインパクトを与えたグーグルの登場ぐらいまでは何とか理解できていたつもりだが、その後の「Twitter」の登場などの目まぐるしい変化・進歩にはお手上げ状態だ。不得意分野のことは、その道の達人に聞くのが一番である。そこで、ITに造詣の深い池上文尋氏に教えを乞うたところ、直ちに3冊の本を読むよう勧められたのである。

「無料」という企業戦略

推薦された1冊目は、『フリー――<無料>からお金を生みだす新戦略』(クリス・アンダーソン著、高橋則明訳、日本放送出版協会)である。「フリー(無料)」というキーワードを通じて、今や企業環境が激変してしまっていることを豊富な実例で明らかにしている。この意味で、企業経営者・幹部にとっては一読の価値がある。米国における実例の中に製薬企業、医薬品卸企業、医療機器企業、人材派遣企業などの名前は見当たらないが、これらの企業といえども、いつ「フリー」の嵐に巻き込まれないとも限らないからだ。

企業が、企業環境の変化に対応して「フリー」戦略を採用しようとするときは、「人々が欲するものをタダであげて、彼らがどうしても必要とするときにだけ有料で売るビジネスモデルをつくるのだ。それを外から見れば、革命的行動に映るだろう」、「フリーはまちがいなく破壊的だが、その嵐が通ったあとに、より効率的な市場を残すことが多い。大切なのは、勝者の側に賭けることだ」、「フリーは魔法の弾丸ではない。無料で差し出すだけでは金持ちにはなれない。フリーによって得た評判や注目を、どのように金銭に変えるかを創造的に考えなければならない」というのが、著者の主張である。

ITツールの使いこなし方

2冊目は、『ツイッターノミクス』(タラ・ハント著、村井章子訳、文藝春秋)である。ウィキ(「ウィキペディア」など)、ブログ、ソーシャル・ネットワーキング・サーヴィス(「mixi」など)、「Twitter」など、ウェブ2.0に花咲いたさまざまなツールを企業がいかに使いこなしているかを、米国の具体的な実例を示して紹介している。

著者が挙げている、ウェブ上で顧客を増やす8つの秘訣は、企業にとって役に立つアドヴァイスであるが、個人が友人を増やす場合にも参考になる。①製品やサーヴィスは初心者を対象に設計する、②コメントには必ず返事をする、③批判を個人攻撃と受け止めない(相手は、わざわざ時間を割いて改善すべき点を指摘してくれたのだから)、④有益な指摘やアイディアには公に感謝する(指摘した本人にとっては嬉しく、他のメンバーにとっては励みになる)、⑤新機能や変更は必ず事前に知らせる、⑥フィードバックを生かして、こまめに改善する(それによって、常に顧客の声を聞く姿勢が伝わる)、⑦フィードバックを待つのではなく、こちらから探しにいく、⑧どんなに愛されている会社や製品でも、あら探しをする人は必ずいると覚悟する。

ITによる自分ブランド確立法

3冊目は、『Me2.0――ネットであなたも仕事も変わる「自分ブランド術」』(ダン・ショーベル著、伊東奈美子訳、日経BP社)である。「自分ブランド」をキーワードとして、Me2.0の時代にあっては、特別でない普通の人であろうと、人生経験が浅い若者であろうと、「パーソナル・ブランディング」によって成功することができる、と熱く語りかける。MR必読の一冊と言えよう。

①自分ブランドを見つける、②自分ブランドをつくる、③自分ブランドを伝える、④自分ブランドを管理する――この4つのステップを踏めば、自分の思いどおりのパーソナル・ブランディングが可能だというのだ。そして、パーソナル・プランディングとは「ありのままの自分をウェブ上で再現すること」、「成功とは、自分が心から楽しめることをして収入を得ること」だという。著者自身がY世代(1982年~2001年生まれ)の成功者であり、その体当たりの体験に基づき述べられているだけに説得力がある。