伊藤若冲は、手を抜かずに、意欲的に自分の世界を追い求めた画家だった・・・【情熱的読書人間のないしょ話(439)】
散策中に、白鷺のような白い花を咲かせているサギソウを見かけました。鮮やかな橙色の花を付けたヒメヒオウギズイセンが群生しています。ゲンペイカズラは赤色の花と白色の萼のコントラストが名前の由来となっています。スパティフィラムの白い仏炎苞が涼しげです。コリウスの縁取りのある派手な葉が目を引きます。因みに、本日の歩数は10,573でした。
閑話休題、『若冲ワンダフルワールド』(辻惟雄・小林忠・狩野博幸・太田彩・池澤一郎・岡田秀之著、新潮社・とんぼの本)は、伊藤若冲ファンには堪らない一冊です。
「動植綏絵」の絢爛たる世界が広がっています。「主なモティーフは鳥(特に鶏)、植物、虫などで、ジャンルとしては『花鳥画』ということになるが、奇妙に心理的な、あるいは生理的なざわめきに満ちた画面は他に類を見ない。京の大店に生まれ育ち、豊かな地代収入があり、絵を売る必要がなかった若冲は、コストパフォーマンスを一切無視し、高価な絵絹や絵具を惜しみなく投入。顔料と染料を巧みに使い分け、没骨法(もっこつほう。輪郭線を描かずに対象をかたどる技法)や裏彩色(うらざいしき。絵絹の裏側にも彩色する伝統的な技法)といった超絶技を駆使して思いの限りに描いた」。
「●太田=若冲は伝統的な技法を踏襲しながらも、人と同じことをやるのでなく、自分が描きたいものはこうなんだ、というこだわりを持っている。知り得たことを組み立てて、自身のものを作り上げている。そこが並の画家とは違うんじゃないかという気がします」。「●辻=『動植綏絵』は約10年にわたって描かれたわけだけど、最後まで完全にひとりで描ききっているね。普通なら弟子の手を借りるだろうに・・・。●太田=すごいこだわりです」。「●太田=あらゆる分野の文化が発展した時代ですね。本草㈻や、俳句や狂歌、浮世絵・・・。若冲は版画も手がけていますが、たぶん浮世絵に影響されていますよね。興味を持ったら何でもやってみる、意欲的な人だったんじゃないでしょうか」。「●辻=普通の画家ならメインのモティーフだけをていねいに描いて、他のところは流すというか、描写に粗密をつけますね。若冲はそれがないんだ。画面のどこを観ても同じ密度で描いている。●太田=中心になるものは確かにあるのに、脇役がいないんですね。すべて同じ気持ちで描いている」。
若冲は生涯独身でした。若冲(=冲<むな>しきが若<ごと>きも)という雅号は、『老子』の「真に徳の盈(み)ち満ちた人物は、一見からっぽのように見えるが、その徳を用いれば窮地に陥ることがない」という一節に由来するそうです。
「観ること、観ること。すべては身の周りに存在している」という基本に徹し切った若冲の息遣いが伝わってきます。