新聞・テレビを通じてのシリア問題、中東問題の理解は間違っていた・・・【情熱的読書人間のないしょ話(484)】
東京・杉並の高円寺を巡る散歩会に参加しました。門の奥の西照寺は緑に包まれていました。承応2(1653)年の銘がある「とろけ地蔵」があります。長善寺の本堂の屋根では、女の龍(向かって右)と男の龍(向かって左)が向かい合っています。大輪の白いハスが咲いています。高円寺に通じる参道は緑に覆われ、落ち着いた雰囲気を漂わせています。布袋の笑顔に引き込まれそうになりました。長龍寺の門とマツの取り合わせは絵画的です。高円寺天祖神社では、狛犬と子犬たちが微笑ましく戯れています。民間信仰の阿弥陀塔は寛文10(1670)年の銘があります。散歩会後の懇親会では、母子家庭の子供たちの進学機会が奪われている問題について、議論が白熱しました。因みに、本日の歩数は17,554でした。
閑話休題、『テレビ・新聞が決して報道しないシリアの真実』(国枝昌樹著、朝日文庫)には、驚くべきことが書かれています。
シリア問題の核心は、シーア派の一派であるアラウィ派と、スンニー派の争いにあり、シリアのアサド政権はアラウィ派による独裁政権だから、シーア派が支配するイランはアサド政権を強力に支援している、サウジアラビアとイランの対立は、サウジアラビアがスンニー派の盟主であり、イランはスンニー派と対立するシーア派の政権だからだ――と、日本のマスコミは報道しているが、これは事実とは異なると、著者が断言しているではありませんか。私が新聞やテレビを通じて理解していたシリア問題、中東問題の構図は間違っているというのです。
著者の見解は、●シーア派とスンニー派との違いを考えるとき、いくつかの宗教儀礼上の違いがあるが、これは本質的なものではない、●両者の最大の違いは、シーア派にある危急の際には自分がイスラム教徒ではないと嘘をつくことが許されるという教えと、一時婚(契約婚)の制度の存在であり、スンニー派はこれらをもってシーア派を背徳的、背教的だと非難している――というものです。そして、「スンニー派が住民の大勢を占める国とシーア派が大勢を占める国とが関係を緊張させる。これは宗教を単なる口実にして政治的な優位を求め、覇権を求める動きであって宗教上の争いとは無関係である」と言い切っています。
シリア内戦は終わりの始まりの段階を迎えているというのが、著者の観察結果を踏まえた意見です。
イスラム国(IS)は、やがて消えていくだろうと、著者は予測しています。「2016年1月5日、米国有志国連合軍報道官は2014年に最大だったISの支配地が2015年末までにイラクでは4割、シリアでは2割ほど失われ、両方合わせて3割縮小したとの判断を披瀝した」。ただし、ISがシリア国内、イラク国内から外部世界での無差別大量殺戮に関心を向けていることには注意が必要でしょう。
シリア国内の反体制派政治・武力グループそれぞれの思惑が解説されていて、シリア問題を理解するのを助けてくれます。
アラブ世界を巡る関係諸国――ロシア、イラン、イラク、レバノン、米国、英国、フランス、カタール、サウジアラビア、トルコ、イスラエル、国連――の戦略についての分析は、大変勉強になります。
一日も早いシリア内戦の終結、ISの消滅を願いつつ、読み終わりました。