榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

三味線、鼓の主はどこへ消えたのか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(506)】

【amazon 『意匠の天才 小村雪岱』 カスタマーレビュー 2016年8月28日】 情熱的読書人間のないしょ話(506)

小村雪岱(せったい)の日本画「青柳」には、想像を掻き立てられます。座敷に三味線と撥、二つの鼓が置かれていますが、それを手にするはずの主役の姿が見えないからです。

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この謎に迫りたいと、『意匠の天才 小村雪岱』(原田治・平田雅樹・山下裕二ほか著、新潮社・とんぼの本)を手に取りました。

大胆にして繊細、豪奢ながら簡潔、破格と端正、懐古的なのに近代的。大正から昭和初期にかけて、大衆文化の分野で活躍した雪岱の意匠・装幀・挿し絵・舞台美術・日本画の作品世界を存分に味わうことができました。

雪岱が描く女性は、雪岱特有の姿形をしていますが、彼の女性観が窺われる文章があります。「君の絵になりさうな美人がゐるから会つてみないかと誘はれることがよくありますが、会つてみてなるほど美人だと思つても直ちにそれを絵にしてみようといふ気になるものではありません。世の中に美人は多いでせう、しかし美人と絵になる美人とはまた違つたものですし、殊に私の場合少々厄介な註文がつきまとひます。私が好んで描きたいと思ふ女は、その女が私の内部にあるもの、何といひますか一口にいへば私の心像です。この心像に似通つたものを持つてゐる女です。そんな人を発見した時に私の好む女の絵が出来上るのです」。