榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

迷宮に迷い込んだかのように頭がくらくらした『バベルの図書館』・・・【情熱的読書人間のないしょ話(799)】

【amazon 『伝奇集』 カスタマーレビュー 2017年6月30日】 情熱的読書人間のないしょ話(799)

散策中、ムクゲが薄赤紫色の花をたくさん付けているのを見つけました。マンデヴィラ・サンデリが濃桃色の花を咲かせています。因みに、本日の歩数は10,148でした。

閑話休題、『伝奇集』(ホルヘ・ルイス・ボルヘス著、鼓直訳、岩波文庫)に収録されている『バベルの図書館』を読んだのですが、正直言って、迷宮に迷い込んだかのように頭がくらくらしてしまいました。

「書棚、謎めいた書物、旅人のための疲れることのない階段、腰おろす司書のための便所などの、優雅な基本財産をそなえた宇宙は、ある神の造られたものでしかありえないだろう。聖なるものと人間的なものをへだてる距離を知るためには、わたしの誤りを犯しがちな手が本の表紙に書きちらす、これらの震える粗雑な記号と、本のなかの有機的な文字とを比較すればたりる。後者は正確で、繊細で、鮮やかな黒で、まねのできないほど均斉がとれている」。

「ある天才的な司書が図書館の基本的な法則を発見した。この思想家のいうには、いかに多種多様であっても、すべての本は行間、ピリオド、コンマ、アルファベットの25字という、おなじ要素からなっていた。また彼は、すべての旅行者が確認するに至ったある事実を指摘した。広大な図書館に、おなじ本は2冊ない。彼はこの反論の余地のない前提から、図書館は全体的なもので、その書棚は二十数個の記号のあらゆる可能な組み合わせ――その数はきわめて厖大であるが無限ではない――を、換言すれば、あるゆる言語で表現可能なもののいっさいをふくんでいると推論した。いっさいとは、未来の詳細な歴史、熾天使らの自伝、図書館の信頼すべきカタログ、何千何万もの虚偽のカタログ、これらのカタログの虚偽性の証明、真実のカタログの虚偽性の証明、バシリデスのグノーシス派の福音書、この福音書の注解、この福音書の注解の注解、あなたの死の真実の記述、それぞれの本のあらゆる言語への翻訳、それぞれの本のあらゆる本のなかへの挿入、などである。図書館があらゆる本を所蔵していることが公表されたとき最初に生まれた感情は、途方もない歓びであった」。

「その種の冒険のために、わたしも生涯を浪費してしまった。宇宙のある本棚に全体的な本が存在するという話は、わたしには嘘だとは思えないのだ」。

「おそらく、老齢と不安で判断が狂っているかもしれないが、しかしわたしは、人類――唯一無二の人類――は絶滅寸前の状態にあり、図書館――明るい、孤独な、無限の、まったく不動の、貴重な本にあふれた、無用の、不壊の、そして秘密の図書館――だけが永久に残るのだと思う」。

図書館大好き人間の私が戸惑っているのを見て、ボルヘスは、してやったりと得意顔をしていることでしょう。