幕末の謎の浮世絵師・歌川広景の滑稽味溢れる作品集は掘り出し物だ・・・【情熱的読書人間のないしょ話(929)】
散策中に、金色に輝くキンエノコロを見つけました。エノコログサとよく似ていますが、キンエノコロの穂は直立しており、エノコログサの穂は小首をかしげています。イチョウの黄葉、ホオノキの黄葉、ハゼノキの紅葉、ソメイヨシノの紅葉、モミジバフウの紅葉、ハナミズキの紅葉を楽しめました。我が家のアジサイも一丁前に紅葉しています。因みに、本日の歩数は10,644でした。
閑話休題、『ヘンな浮世絵――歌川広景のお笑い江戸名所』(太田記念美術館監修、日野原健司著、平凡社)は、何とも楽しい浮世絵集です。
正体が謎に包まれている、幕末の無名の浮世絵師・歌川広景の『江戸名所道戯尽(どうけづくし)』全50枚が収録されていますが、いずれも滑稽味が中途半場ではないのです。その上、作品の多くが歌川広重と葛飾北斎のよく知られた浮世絵のパロディ仕立てになっているのですから、浮世絵ファンには堪りません。
「老若男女の江戸っ子たちが、江戸の名所を舞台に、笑ったり、騒いだり、転んだりと、見ているこちらが思わず脱力してしまうユーモラスな姿で描かれているのだ。まさしく、『お笑い江戸名所』と称したくなる珍品と言えよう」。
「洲崎の汐干」は、深川洲崎の潮干狩りが描かれています。「楽しい春の行事を騒がせたのは、一匹の大きな蛸。若い娘の足に絡みつき、赤い襦袢の中に自分の足を潜り込ませようとしている。蛸と女性といえば、葛飾北斎の春画『喜能会之故真通』の『蛸と海女』が思い起こされるように、どうしても性的なイメージが付きまとう。周りの人々は助けようとするが、左下の男性は尻もちをついて役に立たないところが情けない」。
「鎧のわたし七夕祭」は、不意の災難がテーマです。「七夕の季節、短冊や色紙をぶら下げた青竹が川沿いの屋敷に飾られていたのだが、竹がしなるほどの強風にあおられて、筆の形をした大きな飾りが落下してしまったのだろう。運悪くその下を通る渡し舟に乗っていた女性の股間を直撃してしまった。エロティックなイメージを想起させるハプニングである」。その筆の大きいこと!
「芝高縄」の舞台は、高輪の大木戸です。「着物の洗濯をしていた母と娘。洗い終わった着物を板に張りつけて乾かしていたところ、目の見えない男性がそれとは気がつかずに立ち小便をしてしまった」。せっかく洗濯したのに・・・。
「浅草歳の市」は、またまた女性に災難が振りかかります。「年の暮れに年末年始の品々を商う歳の市。中でも12月17日、18日に行なわれた浅草寺の歳の市は、江戸市中で一番のにぎわいを見せる場所であった。その雑踏の中、箒やしゃもじ、すりこぎ、男根、おかめの面などを組み合わせて作った、夫婦和合を願う巨大な飾り物を運び出そうとしていたところ、風雷神門(雷門)の巨大な提灯にぶつかってしまい、がらがらと崩れ落ちたところのようだ。運悪く女性が巨大な男根の下敷きになってしまったが、運んでいる男たちに反省の色はない」。その一物は女性の体の半分ぐらいはあろうかという巨大さで、それを眺める男たちは笑い転げています。
「歯をむき出しにして大笑いしたり、眉を吊り上げて怒ったり。広景の『江戸名所道戯尽』に描かれた江戸っ子たちは、他の浮世絵には見られないほど表情が豊かである」。まるで百面相のような変顔のオン・パレードです。
気分が落ち込むようなことがあっても、本書が手許にあれば乗り越えられるでしょう。