『日本二千六百年史』が、戦前も戦後も官憲から敵視されたのはなぜか・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1011)】
どうしても行きたいと思っていた千葉・印西の「白鳥の郷」に、遂にやって来ました。コハクチョウとオナガガモの大群で混み合っています。ここのハクチョウはほとんどがコハクチョウですが、コハクチョウより大型で、嘴の黄色部が先端に食い込んでいるオオハクチョウと、嘴の大部分が黒色のアメリカコハクチョウも一部交じっています。羽が灰色っぽいコハクチョウの幼鳥もいます。この分かり難い場所まで案内してくれた佐々木寛氏によれば、1000羽を超えるハクチョウたちが夕陽に輝く様は圧巻とのことです。
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閑話休題、国家主義、国粋主義、日本改造主義の思想家・大川周明が昭和14(1939)年に刊行し、ベストセラーとなった『日本二千六百年史』の初版本が、官憲から削除を指示されたのはなぜか、そして、一転して、戦後になるとGHQから追放図書に指定されたのはなぜか――を知りたくて、『日本二千六百年史(新書版)』(大川周明著、毎日ワンズ)を手にしました。
想像していたとおり、著者が信奉する思想に基づき、日本史が概観されています。「天皇とは『天神にして皇帝』の意味である。吾らの祖先は、天神にして皇帝たる君主を奉じて、この日本国を建設した、而して吾国は文字通り神国であり、天皇は現神であり、天皇の治世は神世であると信じていた。・・・いわゆる『神ながらの道』とは、天皇が神のまにまに日本国家を治め給う道であり、同時に、日本国民が神のまにまに天皇に仕え奉る道のことである」。
「日本に於ては、国祖に於て国家的生命の本源を認め、国祖の直系であり、かつ国祖の精神を如実に現在まで護持し給う天皇を、神として仰ぎ奉るのである。吾らは永遠無窮に一系連綿の天皇を奉じ、尽未来際この国土に拠り、祖先の志業を継承して歩々之を遂行し、吾が国体をしていやが上に光輝あるものたらしめねばならぬ」。
読み進めていくと、あちこちで傍線が引かれている部分に遭遇します。これこそ官憲により不敬罪違反として削除を指示された部分なのです。
例えば、北条泰時に関する箇所では、このような部分に傍線が引かれています。「義時・泰時が非常の大悪を犯すに至ったのも、その動機は主として人民安堵の為であった。されば北条氏代々の執権、よく心を治国平天下の道に潜めたのであったが、わけても吾らをして感嘆に堪えざらしむるものは泰時の政治である。・・・まことに彼はその品格の高潔なりし点に於て、国のために私を顧みざりし精神に於て、而してその事務の才幹に於て、真に日本政治家の儀範である」。時の上皇に逆らって武家政権を守った泰時に対する評価は、あくまで合理的かつ公平で、現代の歴史研究者の言かと錯覚を覚えるほどです。
日本の長い歴史を、これほど分かり易く、コンパクトに書き記すことができるとは、大川が優れた著述家であったことを示しています。国家主義という思想のフィルターがかかっていることを考慮に入れて読めば、日本史の参考書としても役に立つでしょう。