中国人の精神構造を知るには、『資治通鑑』を読むのが一番・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1013)】
直径15cmほどにもなるシシユズ(オニユズ)の実が生っています。これはユズの仲間ではなくブンタン(ザボン)の仲間です。ソラマメを霜から守るため、タケが立てられています。アオサギの、この個体は飾り羽が目立ちます。因みに、本日の歩数は10,688でした。
閑話休題、『世にも恐ろしい中国人の戦略思考』(麻生川静男著、小学館新書)は、中国人の精神構造を知ろうとするとき、『資治通鑑(しじつがん)』を読むのがベストな方法だと断言しています。『資治通鑑』には、紀元前5世紀から紀元後10世紀までの1360年余に及ぶ中国の歴史が記述されています。「数ある中国の歴史書や解説書の中で、なぜ資治通鑑を読む必要があるのか? それは資治通鑑をじっくりと読むことで、現代中国というとらえどころのない国家、国民を根本から理解することができるからだ。現代の中国社会に発生するさまざまな問題――環境破壊、政治腐敗、農村問題、人権問題、少数民族――の根っこの部分は彼らの伝統的な考えに起因する。資治通鑑を読むことで、現在中国の抱えている問題の多くは、なにも最近になって初めて噴出してきたのではないことを知ると、問題の根っこは『共産党』や『一党独裁』にあるのではないことが分かる。ましてや『社会主義市場経済』のせいではない。問題の本質は『自己の利益を最優先に考える、他人の命をないがしろにする、法よりも人脈(関係)を優先する』という中国の伝統的な考えそのものにあるということが分かる」。
中国の国費留学生として来日し、起業し、東証1部上場を果たした中国人社長の社長室の書棚に中国語で書かれた分厚い『資治通鑑』の全集が並んでいたことを、鮮明に思い出しました。
本書では、中国人的思考のキーワードは「義」と「権」だと強調されています。「中国人の伝統的価値観を理解するには『義』と『権』の正しい意味を知らなければならない。ざっくりいえば、『義』とは『人の踏むべき正しい道』のことであり、『権』とは『実践的に正しいこと』である。・・・『権』とは『経には違反するが義に適う』(反経合義)ものなのだと分かる。ここでいう経とは五経のことで、儒教の憲法、あるいはルールブックともいうべきものである。それ故、『経に反する』言動は通常であれば許されるはずがないが、その言動の結果が『義』に合うものであれば許されることになる。論理的に解釈すれば『義』は『経』より上位にあるということだ。『経』は現代でいう『法』であるから、『権』というのは『超法規』ということになる」。
『権』の具体例がいろいろ示されていますが、内通の手紙を読まずに焼き捨てた後漢の光武帝のケースを見てみましょう。『資治通鑑』には、こう記されています。「劉秀(=光武帝)は邯鄲に入城し、残された文書の中に、(敵将の)王郎と心を通じていた自軍の将軍たちの手紙があるのを見つけた。しかし、劉秀は、それを一切読まず、将軍たちを集め、その目の前ですべての文書を焼いて軍中に告げた。『内通した者たちよ、安心せよ!』。この劉秀の行いは日本の現行刑法では『証拠隠滅罪』に該当しよう。しかし、手紙を読んで二股をかけた者たちを見つけて処罰すれば、多くの有能な部下を失う結果になることを劉秀は知っていた。まだまだ倒すべき強敵が残っている時に、忠義心に多少の問題があったとしても、能力のある部下を失うわけにはいかないと劉秀は判断したのだ。劉秀のリーダーとしての器量の大きさもあるが、それにもまして中国人の裏取引に対する伝統的な是認態度が、劉秀のこの行動に反映されていたと考えるべきであろう」。
この他、日本人が「真誠」を重視するのに対し、中国人は「老獪」を高く評価することを示す事例、才能をひけらかさず、時が熟すのをじっと耐えて待った事例などなど、さまざまなエピソードを集大成した百科事典の観があります。
「現代人が読む概説的な歴史書と異なり、資治通鑑のような本物の史書では、人間の生き方の善悪双方のパターンが網羅されている。中国人はとんでもない極悪人から、ウルトラ善人まで、善悪のレンジが極めて広い」という著者の指摘に、頷かざるを得ない説得力ある一冊です。