高倉健の魅力を再認識させてくれる一冊・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1017)】
あちこちで、ウメの白い花が上品な香りを漂わせています。この季節の、葉を全て落とした樹木は趣があります。因みに、本日の歩数は10,661でした。
閑話休題、『高倉健ラストインタヴューズ』(野地秩嘉著文・構成、プレジデント社)は、高倉健本人に対するインタヴューと、高倉をよく知る人たちに対するインタヴューで構成されています。どちらからも、高倉の人間性が香り立ってきます。
子供時代からの友達に頼まれて行った川越少年刑務所での講話の一節。<いろいろなことがあったから、皆さんはここにいるのでしょう・・・。でも目を瞑って自分のいちばん好きな人、恩のある人を思い出してください。その人のために、他の誰のためでもなく、その人だけのために、一日でも早くここを出て、更生してください。よろしくお願いいたします>。その友人の言葉。「講話に立ち会っていた私は、彼の話に真剣に聞き入っている大勢の少年たちの泣き出さんばかりの表情を見て、剛ちゃん(=高倉)に来てもらって本当によかったと思った」。
映画に真剣になった理由を聞かれて。<昔は好きな女ができて、こいつのためにとか、そういうのが動機だった。いまは、そうじゃないんだ。自分がよしと思える企画に出ること」。
高倉が三木のり平に負けた話。「健さんが存在感があるからといって、すべての芝居で相手役を食ったわけではありません。たとえば『あ・うん』では健さんは(のり平に)完全に食われてます。・・・本当に食われたのが健さんの健さんたるゆえんです。・・・あの後、ひとこと言っていましたよ。『のり平さんにはもう、かないませんよ』。・・・健さんは気が合っている人と芝居をするのが好きでした。奈良岡(朋子)さん、田中(裕子)さん、ビートたけしさん、のり平さんがそうでした。伝わるもののある演技と、『なんとなくやっている』という演技の違いには、非常に敏感な人なんでしょうね」。
「高倉さんが好きな俳優って、何人もいるんです。インタビューだとジャン・ギャバン、ロバート・デ・ニーロと言っているけれど、日本の俳優だったら田中邦衛さんと由利徹さんじゃないかな。高倉さんはふたりと映画をやりたい、ほんと面白いんだっていっつも言っていました。・・・尊敬している役者もいました。大滝秀治さん、笠智衆さん、志村喬さん。とっても尊敬していましたよ。よく教えてくれました。あの人たちは演技していないように見えるだろ。でも、あれは誰にもできないんだ。ああいう人間なんだ。すごい人なんだよって。演技じゃないんだ、あれは人間だって・・・。そして、みんなユーモアがあると言うんですよ」。
高倉を担当した編集者の言葉。「ひとつの原稿チェックをするだけで、2時間、3時間と時間をかける人だった。私の知る限りにおいて、どんなに著名な作家でも経営者でもそんな手間はかけない。高倉さんはひとつひとつの仕事に非常に丁寧に向き合う人だった」。
著者の言葉。「高倉さんは直接、相手に『キミはここが立派だ。エラい』とは言わない。相手に伝わるように、周りにいる人間に『あいつのここが立派だ』とささやく。そうすれば、いつかは相手に届く。つまり、間接的にほめるのである。ほめられた方にしてみれば、直接、言葉をかけてもらうよりも、『オレは高倉さんにそれほど評価されているのか』と何度も喜びをかみしめることができる。賢いというか、巧みというか・・・。つまり、高倉健は人生におけるコミュニケーションのプロだ。そういう方法で、つねにスタッフや仕事仲間をほめては、やる気にさせている。スイッチの入れ方がうまい」。
高倉健をますます好きになってしまいました。