榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

客のどんな要望にも応えてくれる不思議な書店があったら・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1058)】

【amazon 『あるかしら書店』 カスタマーレビュー 2018年3月16日】 情熱的読書人間のないしょ話(1058)

キズイセンが黄色い花を、ニホンズイセンが白い花を咲かせています。ジンチョウゲが芳香を漂わせています。あちこちで、さまざまな色合いのツバキが咲き競っています。フサアカシア(ミモザ)の黄色い花が目に鮮やかです。

閑話休題、『あるかしら書店』(ヨシタケシンスケ著、ポプラ社)は、何とも不思議な書店と、そこを訪れる客たちのどんな要望に応えてくれる店主が登場する、この世に一冊しかない奇妙な絵本です。

「その町のはずれの一角に、『あるかしら書店』があります。このお店は『本にまつわる本』の専門店。店のおじさんに『○○についての本って あるかしら?』ってきくと、たいてい『ありますよ!』と言って奥から出してきてくれます。今日もあるかしら書店には、いろんな理由で本を探しにお客さんがやってきます」。

「本にまつわる道具」が欲しいという客には、「読書サポートロボ」が提供されます。「あなたの読書をよりよいものに! 『ヨムロボくん』新発売! ベンリな機能満載!」。「うるさい所で耳をふさいでくれる」。「はげましてくれる――ここまで読んだんだからガンバロ! あとちょっとじゃん!」。「ウトウトしてたら起こしてくれる」。「暗いところで読んでたら叱ってくれる――コラ! 目ェ悪くなる!!」。「感想を聞いてくれる」。「しおり機能付き」。

「本にまつわる名所」を希望する客には、「お墓の中の本棚」が紹介されます。「①1年に1度のお墓参り。その日1日だけ、そのお墓はパカッと開くようにできています。②中は本棚になっていて、本が好きだったあの人がよく読んでいた本、影響をうけた本、いつか大事な人に読んでほしいと思っていた本がたくさん入っています。③その中から1冊選び、カバンに入れます。④そして、家から持ってきた『天国のあの人に読んでもらいたい その年 オススメの1冊』を本棚に入れます。⑤扉をしめて、お祈りをして、⑥カバンの中の本にわくわくしながら、お家に帰ります」。

「本そのものについての本」を求める客には、「ひとりの本」が薦められます。「①そのおじいさんは、朝起きると おさんぽにでかけ、石をひとつ、ひろってきます。②一日中 その石を眺め、その石に名前をつけ、その石が主人公のお話を考えます。③夜、その石のプロフィールとスケッチ、ストーリーを、ノートに書きしるします。④次の日の朝、その石をもとあった場所に戻しに行き、⑤別の石をひとつ、ひろってきます。⑥ぶ厚いノートの束は そのうち本のようになり、⓻彼による、彼のための『本』は、彼の死後、彼の希望通り彼と一緒に埋葬されたそうです」。

「図書館とか書店についての本」をと言う客には、「ラブリーラブリーライブラリー」が示されます。「誰かの家の本棚の本たちは その人のものでしかないけれど、図書館にいる本たちには夢がある。『誰かの役に立つかもしれない』。『誰かを楽しませ、勇気づけ、なぐさめることができるかもしれない』。『誰かと何か、誰かと誰かをむすびつけるかもしれない』。誰かに読まれるその日まで ひとつの想いを紙の間にはさみつづけて 本たちは 今日も棚の中で じっとしている」。

もう一つの「ラブリーラブリーライブラリー」は、こんなふうです。「今 生きている人と、昔 生きていた人が出会う場所。これから人生が始まる人と長い人生を生きてきた人が集まる場所。ひとりになりたい人が行くところ。『でも、誰かいてくれた方が落ちつく』って人が行くところ。『図書館に行ってきた』。そう誰かにちょっと自慢したい人が行くところ。本が好きな人が行くところ。『本が好きな人』のことが好きな人が働くところ」。

「本屋さんって どういうところ?」は、このような内容です。「①本屋さんって、いい本を届けるために、いい本が未来にのこるために、いい本が生まれ続けるために、日々、プロが右往左往するところ。②希望や失望や欲望や、他人の人生や見たことのない風景や、世界のヒミツや もうひとりの自分など、お金で買えないハズのものがお金で買えるところ。③検索ではたどり着けない新しい世界を、いつも用意してくれているところ。④将来生まれる名作のために、投資をするところ。⑤新しい本が世に出る場所をいつも用意しておいてくれるところ。⑥本に助けられた人々が、本に恩返しするために本に関わり続けるところ」。

このように、本当に不思議な書店なのです。