榎戸誠の情熱的読書のすすめ -3つの読書論・ことばのオアシス・国語力常識クイズ(一問一答!)-

歴代法王の中に女性の法王が一人いたというのは本当か・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1075)】

【amazon 『愛の年代記』 カスタマーレビュー 2018年4月2日】 情熱的読書人間のないしょ話(1075)

我が家の庭の片隅で、ムスカリ、キンセンカ、タチツボスミレが咲いています。散策中に、コスミレ、アリアケスミレ、アメリカスミレサイシンを見つけました。スミレは同定が難しいので、植物に詳しい柳沢朝江さんに教えてもらいました。ハナニラが群生しています。ベニシジミ、キタキチョウ、モンシロチョウに出会いました。因みに、本日の歩数は10,703でした。

閑話休題、歴代法王の中に女性の法王が一人いたという説があると知って以来、歴史的事実なのか伝説に過ぎないのか知りたいと願ってきました。

愛の年代記』(塩野七生著、新潮文庫)に収められている「女法王ジョヴァンナ」は、このテーマを扱っています。

「時は、9世紀。暗黒の中世とされている時代の中でも、最も暗黒で、すなわち歴史上では、量的にも少なく、質的にも不明確な史料しか残っていず、科学的に実証するには、最も困難な時代の話である」。

両親の死後、尼僧となったジョヴァンナは、写本製作のために尼僧院を訪れた修道士と恋仲になり、自分も男装して修道士に成り済まし、恋人が属す僧院に潜り込みます。しかし、仲間の修道士に密会現場を目撃され、恋人と共に逃亡します。

最初に向かったギリシャで弁説の才を開花させて一躍人気者になると、恋人を捨てて、単身、ローマに赴きます。この時、ジョヴァンナは32歳でした。若き修道士ジョヴァンニ(=ジョヴァンナ)の学識にいたく感心したレオーネ四世は、ジョヴァンナを聖マルティーノ学院の神学教授に任命し、その後、法王の特別私設秘書に抜擢します。「ジョヴァンナは、いよいよ、ローマ法王庁の内部に入るのに成功したのである」。

「学院と法王庁の両方から、ジョヴァンナの良い評判が、ローマの庶民の間にまで浸透するのに、それほど長い時は必要でなかった。ローマの地をふんでから2年後、彼女は、学院と法王庁と一般庶民から、すなわちローマ中から、聖アウグスティヌスの再来とまで、褒めたたえられるほどになった」。

そして、ジョヴァンナは、遂に法王にまで上り詰めます。「2年半におよぶ法王ジョヴァンニ八世の治世は、なかなかに良政であったと言われる。対外的にも対内的にも、それほどたいした事件がなかったからかもしれないが、まずは及第点をあげてもよいほど、手痛い失政はしなかったらしい」。

野望を実現したジョヴァンナは、再び女の性に目覚め、若い秘書に手を出して不義の子を身籠もり、祝祭ミサの最中に産み落としてしまいます。「ミサが終りに近づき、讃美歌の合唱がはじまった時、ついにジョヴァンナは耐えきれなくなった。青い顔で祭壇の前の石段の上に倒れてしまった。彼女は、気を失っていた。人々が走り寄ろうとした。その時、金らんの法王衣のすそから、真紅の血があふれ出し、大理石の階段を伝わって流れ出したのを、多くの人々が見た。教会の中は、何事かと驚く人々で騒然となった。その時である。教会の中の空気を破るように、オギャアという声が聴えたのだった。・・・子を産みおとした法王は、教会の横にある聖具室に運びこまれてからまもなく、死んだ」。

ローマ法王庁の公式記録に、ジョヴァンニ八世の名はあるが、女性であったとは一切記載されていないということです。