憲法を変えるか変えないかを論じるには、先ず、日本国憲法を読んでみよう・・・【情熱的読書人間のないしょ話(1232)】
エノコログサの穂が風に揺れています。エノコログサによく似たキンエノコロも揺れています。エノコログサの穂は小首をかしげたように垂れていますが、キンエノコロは金色に輝く穂が直立しています。ツルバキアが薄紫色の花を咲かせています。ブーゲンビレアが実を付けています。花弁のように見えるのは苞です。因みに、本日の歩数は10,852でした。
閑話休題、何であれ、物事を論じる場合、その物事そのものを知らずに、漠然とした印象や先入観、あるいは他人の意見を頼って、安易に結論を出してしまうことが、いかに危険かということは火を見るよりも明らかです。まして、日本という国の基本姿勢を定め、国民一人ひとりの権利と自由を守ってくれる日本国憲法を論じる場合は、なおさらです。民法、商法、刑法などと異なり、憲法は全体を読んでも、そう時間はかかりません。
この意味で、『理念から未来像へ――憲法を正しく読めばこんな国』(谷口江里也著、未知谷)は、改めて憲法を学ぶのに最適な一冊です。巻末付録として日本国憲法の全文が掲載されていますが、たった24ページしかありません。
憲法は、何のために存在しているのでしょうか。「国民が自分たちの国を運営していくため委任者として選んだ国会議員や、議員によって構成される国会や、そこで選出される首相などで構成される政府や、その指示を受けて国民が健やかに安心して暮らすための諸々の社会的仕事を行う官僚や公務員やその組織などが、国民のために何をすべきか、何をしてはいけないかを書き記したものです」。
「したがって憲法は、立法府でつくられる法律をはじめとする、さまざまな国家運営のありようを規定する、国の最上位の法律であり、たまたま一時的に選挙で選ばれたに過ぎない国会議員や政府や地方自治体の長や、国民のための仕事に従事する国家公務員や地方公務員や検察や裁判所などが、勝手に恣意的な判断をしたり行動したり、それによって国民を苦しめたり、個々人の人権を侵害したり、近親者を優遇したり、税金を無駄遣いしたり、そして何より国民にとって最も悲惨な戦争などをむやみに起こしたりしないよう縛り、その行動の範囲を規定する役割を持っています」。
「憲法のもう一つの役割は、国民が自分たちの国をどのような国にしたいかを代弁する役割、つまり国家運営上の基本的な理念や方向性を提示するものです」。「しかし残念ながら現在の日本国のありようは、日本国憲法が目指す姿から遠く隔たっています。本書はそのような社会の現実を、より良いものへと変えていくための、何らかのきっかけとなることを願うものです」。
本書は、著者が日本国憲法の基本的特徴や構造や理念が最もよく表されていると考えている「前文」、「第一章 天皇」、「第二章 戦争の放棄」、「第三章 国民の権利及び義務」、「第十章 最高法規」に焦点が絞られています。これらは、巻末付録の僅か11ページに収まっています。
自民党の日本国憲法改正草案は、日本国憲法の対極にあると指摘しています。「日本国憲法が、過去の戦争に対する強い反省と、もう二度と政府主導による戦争はしないという決意を表明し、そのためにこそ、この憲法を定めたのだとしているのに対し、自民党草案ではそのような過去の歴史を踏まえた表現が全くありません。これは極めて重大かつ決定的な違いです。このような憲法下では、戦前のような軍事独裁政権と似たような政府が、議会で多数を占めて再び戦争に突っ走ってしまうことに対する歯止めが掛かりませんし、憲法に照らし合わせてそれに抗することもできなくなってしまいます」。
「これでは、治安維持法や国家総動員法などを制定して第二次世界大戦に向かった日本が犯した過ちを悔いるどころか、再びそのような体制を目指すことを、あえて容認するかのようです」。そのような暗愚を繰り返さないためにこそ日本国憲法が制定されたことを、私たちは忘れてはなりません。
軍事産業という特殊な産業の実体が見事に暴かれています。「国力の増大を目的に軍事力の増殖を続け、国の経済の仕組の中に近代の産業化社会が産み出した悪しき産業である軍事産業を、国の中核的な産業として国家の産業構造の中に組み込み、それを増大させ続けて経済を活性化させるという、悪魔のサイクルが存在しました。軍事産業は極めて特殊な産業です。生産品は全て人間を殺傷し街を破壊するためのものであり、しかも核のような破壊力を持つ兵器が大量に存在する中では、むしろそれらは使われることなく、つまり消費せずに開発競争をし続け、次から次へと新しい武器や兵器を開発し、古い兵器を破棄あるいは他国に売却するなど、産業化社会の大量生産大量消費のサイクルを、国家存亡に関わる重要産業であるという理由の元に。国家経済のために大規模で回すことで成立する産業です。つまり戦争などせずに、戦争の勃発という恐怖や妄想をテコに、国家予算を湯水のように費って開発競争をし続け、軍備を拡張し続けることが、国や関係者にとって最も儲かり、かつ好ましいという奇妙な産業です」。軍事産業というのは、一言で言えば、戦争を食い物にして肥大化し続ける怪物です。さらに、米国やロシア、中国などでは、軍事産業がなければ国の経済が成立しないほど、軍事産業と国家が一体化して巨大産業連合体になり果てているのです。
早速、巻末付録の11ページを読むことから始めましょう。